抄録
東日本大震災から3年が経過したが、被災地では依然として困難な状況が続いている。特に原子力発電所事故の影響を強く受ける福島県沿岸地域では、その傾向が著しい。その一つに避難者の増加などにともなう労働力不足がある。広域避難の長期化は地域の労働力を減少させ、復興を困難なものにしている。本報告では福島県南相馬市原町地域を事例に、実態調査を基にその状況を明らかにする。
まず、調査企業の売上高の推移をみると、建設業の伸びが著しいことを除けば、製造業、小売業、サービス業が震災前の約8割、卸売業が同6割の水準にとどまっている。ここで特に注目されるのは、2012年から13年の間の回復が小さいことである。調査した267企業中118企業が企業が直面する課題として労働力不足をあげている。
調査企業における震災以降の従業員数(正社員)の推移をみると、従業者数は震災前の水準に戻りつつあるものの、建設業を除けばまだ回復していない。特にサービス業においては落ち込みが大きい状態が続いている。また、要旨集の表では示していないが、雇用形態別に見るとパート(特に小売業)の減少が大きい。これは母子避難の増加で、主婦パートの確保が困難になっているためである。この結果、88企業が、労働力不足からビジネスチャンスを逃していると考えている。
これを補うために新規雇用も活発に行われている。調査企業の新規雇用者数(正社員)をみると、震災後に多数の従業員が雇用されている。しかし、このような大量の雇用は必ずしも従業員数の増加に結びついていない。これは労働力があまりよく定着していないことを示している。
多くの新規雇用があるにもかかわらず、労働力の不足が解消されない理由として、求人が逼迫しているために未経験者の中途採用が全採用数の36%を占めるなど、必ずしも事業所側が求める人材を得られない状況にあることが指摘できる。調査では全体の56%の企業が労働力に質的な問題があると回答しており、量的のみならず、質的な問題が存在していることを示している。労働力の質の低下による生産性の低下が労働力の不足感をさらに強めているものと考えられる。
このような状況から、賃金は上昇傾向にある。2013年10月の調査企業の賃金を震災前と比較すると、ほぼすべての業種で賃金が上昇している。特にサービス業ではこの傾向が強い。製造業の正社員と臨時では逆に賃金が低下しているが、これは主に食品加工業の経営が悪化していることの影響である。しかし、売上が十分に回復しない中で高い賃金の労働力を多数雇用することは企業経営の悪化につながる可能性もある。慎重な検討が必要である