抄録
1. はじめに モンゴルはユーラシア大陸内陸に位置するため、降水量が少なく、乾燥地・半乾燥地が国土の大部分を占めている。これまで、木村・篠田(2010)では、夏季の降水事例と水蒸気移流に関して、毎日の天気図と降水量を基に、低気圧の移動経路と降水量の分布、そして水蒸気の移流方向に関して明らかにされた。従来、モンゴル域では平均的に西から水蒸気が移流してくるとされていたが、日本海など東からの移流もみられ、500hPaのパターンと関連している。しかし、モンゴル全土を対象地域としたこと、また、降水の有無のみに着目して降水量の多寡は問わなかったことが、問題として残っていた。 本研究では、夏季のモンゴル域でみられる低気圧・前線の移動による降水量の分布について解析し、水蒸気移流との関係を事例解析から明らかにする。 2. 使用データと解析方法 本研究では、1979~2012年の5~8月を研究対象期間とする。使用データはECMWF(ヨーロッパ中期予報センター)のERA Interimによる0.5°グリッドデータの各要素である。降水量は12時間ごとの値であり、天気図は海面更正気圧を図化して使用している。さらに、水蒸気移流に関しては、850hPaの風向風速(U,V成分)および水蒸気量を用いて計算している。なお、日界はUTC0時を用いているため、ウランバートル時間で午前8時となる。 本研究では、夏季モンゴルにおける毎日の降水量の分布図を作成し、気圧配置図と比較することにより、モンゴルを通過する低気圧・前線がもたらす降水量の分布とその特徴を示す。そして、低気圧の通過経路や水蒸気輸送パターンにより変化していく降水量とその分布を動的に明らかにしていく。そして、特に多くの降水量をもたらす状況とその要因について考察を行う。 3. 降水量の分布と対応する天気図解析:モンゴル北部で降水量が多くなる低気圧の移動 2000年6月26日は、図1の天気図のとおり、モンゴル東部に低気圧、北西部に高気圧がみられ、モンゴル北部は「西高東低」の気圧配置となっている。この低気圧の東進に伴って、モンゴル北部で降水がみられた。26日(図2)と27日(図3)のUTC0~12時の降水量分布をみると、バイカル湖の南側を降水帯は西から東へ移動していったことがわかる。降水をもたらす水蒸気は、北・北西側から入っていた(図4)。この地域の6月の月降水量の平均値は100mmを超える地域もあるため、 1か月に数回、同じように低気圧が移動してきて、雨をもたらしていることがわかる。