日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P009
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発表要旨
房総丘陵渓流部における近世以降の岩盤河床の下刻速度
*前田 拓志藁谷 哲也
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抄録

1.目的 
房総丘陵では,近世以降「川廻し」と呼称される,おもに新田開発を目的とした蛇行流路の短絡化が行なわれてきた.流路の短絡によって,切断された河床は無能河川(旧河床)となる一方で,短絡区間に連続する河床(現河床)は,その後も河川の侵食を被ってきた.ここで,現河床の侵食における「川廻し」以降の時間は,下刻作用継続時間Tとみなすことができる.すなわち,現旧河床面における比高をH,下刻作用継続期間をTとして,「川廻し」以降における河床の平均下刻速度H/Tが求められる.このような観点から,房総丘陵の岩盤河床を対象にして平均下刻速度H/Tを求めた.
 
2.調査対象地点と研究方法
「川廻し」の成立時期が推定できる,次の6地点を調査の対象とした.①釜生(小櫃川,砂岩を挟在する泥岩優勢河床),②市野川(夷隅川支流・馬堀川,泥岩河床),③芳賀(夷隅川支流・新戸川,泥岩河床),④白木1(夷隅川支流・新戸川,泥岩河床),⑤白木2(夷隅川支流・新戸川,泥岩河床),⑥小羽戸(夷隅川,砂岩を挟在する泥岩優勢河床).
現地調査では,現・旧河床面の比高を求めるために,河床横断・縦断形を計測し,旧河床面の位置は,ハンドオーガーおよび土壌検査棒で計測した.また,短絡区間より上流の流域面積をGIS上で計算して求めた.一方,河床を構成する岩石の硬さをシュミットハンマーKS型で計測し,河床から採取した岩石試料を用いて圧裂引張強度を求めた.

3.結果と考察
「川廻し」地形の地形計測から得られた現・旧河床面の比高より,平均下刻速度H/Tは以下のように求められた.  ①釜生(上流側)=7.87mm/y.①釜生(下流側)=8.13mm/y.②市野川=15.89mm/y.③芳賀=3.95mm/y.④白木1=5.40mm/y.⑤白木2=5.95mm/y.⑥小羽戸=5.81mm/y.
さらに,これら下刻速度が,河川の侵食営力Fと侵食に対する抵抗力Rとの関係に制約を受けると考え,速度の次元をもつF/Rの指標を考えた.そして,このF/Rの指標と下刻速度との関係を検討した結果,両者の間におおむね正相関が認められ,両者の関係は以下のように表されることがわかった.
H/T∝(APtanθnewρg)/(WSs
ここで,Hは現旧河床面の比高(m),Tは下刻作用継続時間(y),Aは流域面積(km²),Pは流域における年間降水量(mm/y),tanθnewは「川廻し」による短絡区間の河床勾配,ρは水の密度,gは重力加速度であり,ρgは水の単位体積重量(9810N/m³と仮定)に相当し,値は一定である.Wは河床幅員(m),Ssは河床を構成する岩石のせん断強度(N/mm²)である.これは,「川廻し」より得られる平均下刻速度が,(A P tanθnew ρg)/Wで代表される侵食営力Fと,Ssで代表される河床を構成する岩石の侵食に対する抵抗力Rとの比に比例することを示している.

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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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