日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P075
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発表要旨
若手の交流の場としての日韓中地理学会議
*元木 理寿佐々木 達
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抄録
1 はじめに 日韓中地理学会議は2013年8月から9月にかけて九州大学で開催された会議で第8回を数えた。本報告では,これまでの経緯と会議の特徴を紹介し,過去8回の開催経験から本会議の特徴の一つである若手同士の交流の場としての意味合いと今後に向けた課題について検討する。 2 本会議の経緯と特徴 この会議は上記の通り日韓中の3カ国が持ち回りで毎年開催している。以下,開催地を示す。第1回(2006)北京師範大学(北京),第2回(2007)熊本大学(熊本),第3回(2008)清州大学(清州),第4回(2009)広州大学(広州),第5回(2010)東北大学(仙台),第6回(2011)ソウル大学(ソウル),第7回(2012)東北師範大学(長春),第8回(2013)九州大学(福岡),第9回(2014)釜山大学(釜山)予定。第1回と第2回の正式な会議名称は「Sino-Japan-Korean Symposium of Young Geographers」及び,「Second Japan-Korea-China Symposium of Young Geographers」(日韓中若手地理学者会議)であったように,若手を中心とした企画として始まった。第3回以降「若手・Young」の語は会議の正式名称から外れている(荒木2014)。 本会議の特徴は,国際会議に参加する機会の少ない大学院生やポスト・ドクター,職について10年以内のいわゆる若手の地理学者が発表経験を積めること,中国,韓国の研究者とのつながりを作りだせる機会を提供していること,そして発表を通した学術交流だけでなく国際交流にも重点が置かれていることにある。運営面では,固定化された事務局を持たず,若手をはじめとする有志が中心となって会議を作ることが可能であるというユニークな会議となっている。さらに,レセプションにおいては,日本側若手がみせる演武,寸劇などを披露し,日本側から積極的に話す機会を作っていることも興味深い。また正式な巡検だけでなく,合間をみて日韓中の若手同士が開催地の周辺を巡検することで,同世代の関心や視点の相違を養う機会にもなっている。 3 交流の場としての地理学会議と今後の課題 順調に規模を拡大し,各回において特徴をみせてきた会議であるが,それに伴ってさまざまな課題もでてきている。本報告では,「交流」の点に着目し,本会議の持つ意味とその可能性について,研究分野の交流と研究者同士の交流という2つの側面から検討してみたい。 まず学術交流としての研究分野の交流についてみると,現在の地理学においては,各分野,研究グループなど研究者間のネットワークは多く存在する。しかし,現実には地理学の中において専門領域が多様化,細分化しているため大学を超えて,あるいは他分野の研究者との交流は限定される。とりわけ,中国や韓国などアジア諸国の研究者と個人レベルで触れ合う機会は,アジアに対する興味・関心が高い,自らの研究においてフィールドを持っている,あるいは大学生・大学院生時代からの付き合い等がなければ少なく,ネットワークを広げることは難しいといえる。その意味では,多様な分野を内包する地理学としてアジアという枠組みで分野を超えた研究面での交流を構築することができる可能性を本会議は持っている。若手にとって研究分野の学術交流だけでなく,アジアで生活する同世代の研究(環境)に対する意識,現在のそれぞれの地域環境について生の情報交換ができることの意味は大きく,今後の自らの研究領域やネットワークを広げるチャンスを提供している点は注目に値する。 次に,研究者同士の交流という面では,若手や学兄を中心に開催される会議の性質上,会議の運営や懇親会等では,大学間,あるいは人文・自然地理学といった分野の枠組みを超え縦横のつながりが自然発生的に形成されてきた。しかし,近年,大学や専門分野を超えた交流が少なくなってきていることも事実である。その意味では,本会議がかつての全国地理学大学院生連絡会のような,研究だけでなく若手の交流を補完する役割を持っているとも言える。一方,中国や韓国と日本の参加者との交流という面では,発表の場での交流にとどまり未だ個人的なつながりに依存せざるを得ない状況にある。会議自体のねらいの一つとしてアジアの枠組みでオルタナティブな地理学の可能性を探ることにあるとすれば,その点は今後の課題となるだろう。ただし,「自然と人間とのかかわり」や「環境」というキーワードを視座に持つ地理学にとって,本会議が「ゆるやかな つながり」を育んできたことは大きく評価できる点である。 今後,アジアという枠組みの中で研究分野,研究者間のつながりを実りあるものとし,発展させていくためにも,次世代を担う地理学者として参加者自身が積極的に本会議を活用していただけることを期待したい。
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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