抄録
Ⅰ.問題所在と研究目的
アンケート調査においては,あらかじめ設定された尺度(選択肢回答法)において回答を求め,これをもとにデータ解析が行われる場合が多く,これまで「自由回答」は,そのデータ解釈を補完するものとして位置付けられてきた.しかし,近年では,企業ソリューションの現場等において,アンケートの自由回答記述やWebサイトに寄せられるユーザーからの書き込み,twitter,Facebook等のSNSへの投稿テキストをもとに,顧客や市場のニーズを抽出し,製品やサービスへの不満点等を分析する「テキストマイニング」手法が着目されつつある.本研究では,同手法により,東日本大震災における被災者の高齢者支援に関する自由回答を対象とし,要望の構造を明らかにすることを目的とする.
Ⅱ.研究方法
本調査は,東日本大震災における被災3地域(岩手県大船渡市・宮城県気仙沼市・福島県新地町)において,発災から1年後の2012年3月に行ったアンケート調査に基づき分析を行った.分析にあたっては,出現用語における表記の統一(「買物」「買い物」「買いもの」,「仮設」「仮設住居」「仮設住宅」等)を行った後,文法による形態素の分類と採用品詞による選択を経て出現頻度による集約解析を実施した。本研究では,自由回答のもつ意味空間と属性との関係を検討するために,「調査地域」「被災状況」「復興感」「年齢」「性別」を外部変数として設定し,データ欠損値を除く936件を分析対象とした.
Ⅲ.分析結果
出現用語の係り受けを考慮してその出現数の傾向をみると,3調査地に共通して「病院」や「買物」への「交通」の「便」の改善に関する支援要望が多く見られた.また被災状況と復興感を外部変数とする多重対応分析を行った結果,「全壊」の被災者は,復興感が「0~20%」と低く,仮設住宅での生活全般にかかわる支援要望が見られた反面,「一部損壊」や「無被害」の被災者は,比較的高い復興感をもち,その要望は「介護」や「デイサービス」などより高度な要望になっていることが明らかになった. 本調査は同一地域を対象とした3年間の継続調査で実施されており,今後は被災者の支援要望の変化や要因等についても併せて検討していくことが課題である.