日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 819
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発表要旨
中心市街地の大型店撤退跡地におけるダウンサイジング型再開発の試み
諫早市中心市街地を事例に
*箸本 健二
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抄録

 
2000年代前後より、地方都市の中心市街地における大型店撤退が増加し、その跡地利用の停滞が「まちづくり」の阻害要因となっている。一方、少子高齢化社会が進行する中で小売販売額の縮小は不可避といえる。また郊外の大型商業施設も地方都市の消費需要を支える核であり続けよう。この状況下において、中心市街地の商業空間を高度経済成長期の規模で維持していくことは困難であり、規模縮小を前提としたまちづくりが求められる。本報告は、諫早市中心市街地における「諫早サティ」跡地の再開発を事例に、当事者間の合意形成、消費者ニーズの反映、行政の協力体制などを検討し、地方都市におけるダウンサイジング型再開発の方策について考察する。<BR>諫早市は、長崎県のほぼ中央部に位置し、江戸時代から交通の要衝として発展した。2005年3月には1市5町による合併を経て、14万人(2010年国勢調査)を超える人口規模を擁している。他方、売場面積1,000㎡以上の大型店は市内全域で32店舗(2013年4月)に達し、大部分が郊外立地であるため、中心市街地の空洞化は著しい。中心市街地には協同組合連合会に組織化された3商店街のほか、ダイエー、サティ(旧ニチイ)の大型店が立地していたが、前者が1998年、後者は2005年にいずれも閉鎖された。 諫早サティの閉鎖による中心市街地への悪影響を懸念した連合会と市は、当初、商店街が建物を借り受ける形での利活用を模索した。しかし、建物の老朽化(1972年竣工)と広い売場面積(4階建て、4,448㎡)から再利用の採算性は低いと判断し、連合会を事業主体とするダウンサイジング型の建て替えに方針転換した。市は、国の中心市街地活性化戦略的補助金(1/2補助)の獲得に動き、同時並行で地権者の対応にあたった。これらが奏功して、サティ撤退の1年3カ月後、売場面積を1,949㎡に縮小し、地 元の消費者の要望を踏まえた食品スーパー、雑貨品店をテナントに含む「アエル諫早」として再開した。。<BR>アエル諫早開発の第1の特徴は、事業継続の根本となる事業採算性を重視し、あえて売場面積の縮小をともなう「建て替え」に踏み切った点である。短期的には負担増となる意思決定であるが、建物の解体費用は市が負担し、再建費用(総額5,6億円)のうち2億を国の戦略的補助金、1億を市、残る2.56億円を商店街が自己負担する按分を行った結果、20年間での償却を可能にした。第2の特徴は、消費者の要請に基づくテナントミックスを実施した点である。核店舗である食品スーパーやファンシー雑貨店は、消費者調査に沿ったテナントミックスである。第3の特徴は、地権者調整の早期進行である。諫早サティの撤退は2004年9月に発表されたが、同月30日には地権者交渉を始め、このことが奏功して2005年2月のサティ撤退時にはダウンサイジングを前提とする再開発への合意をほぼ取り付けている。そして第4の特徴は、アエル諫早を中心市街地全体の集客装置と位置づけたことである。具体的には駐車場を90分無料とし、商店街への買い回り時間を確保した。当初は回転率の低下も懸念されたが、1日平均で8回転~9回転を確保している。。<BR>2006年5月に開業したアエル諫早は、2013年現在順調に経営を継続し、他の中心市街地商業施設への来街者も増えている。こうした中、1998年に閉鎖されたダイエー諫早店の撤退跡地の再開発事業が立ち上がるなど、アエル諫早の波及効果は大きい。本報告ではアエル諫早の成功要因について、①官民の役割分担、②地権者交渉、③ダウンサイジング、④意思決定スピードの重要性などの視点から考察を行う。

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