日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 825
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発表要旨
都市構想をとりまく主体間協力・競合からみる「理想的な宗教都市」への課題
―奈良県天理市を事例に―
*石坂 愛
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抄録

Ⅰ.序論
 2000年代に入ると,主体間関係の重要性が見直され,より詳細な都市計画遂行過程を追う研究が見られるようになった.しかし,自治体や民間組織の他に都市機能に影響する絶対的要素をもつ主体が都市形成に関与する事例があり,宗教都市はそのひとつである.日本の宗教都市研究は,①近世以前成立都市のものに偏向しがちであり,ゆえに資料が限定され詳細な形成過程やそれに伴う課題が把握しづらい②台頭してきた建築学の分野の特性上,景観形成に着目したものが多いことから,主体間関係への着目が欠如しているという課題が残された.本研究では宗教都市構想を実現する上での課題を明らかにし,その改善策を提示することを目的とする.その方法として奈良県天理市の宗教都市構想の基盤となる「八町四方構想」について,天理教教会本部の計画遂行過程を明らかにし,天理市や地域住民の見解と関わり方をみる.
Ⅱ.研究内容
 天理教教会本部の所在する奈良県丹波市町を中心とした周辺六ヶ村が合併し,1954年に天理市が発足した.市制発足に際し①天理教が名称の由来となった事実の風化を防ぐ②「理想的な宗教都市」の実現といった目的のもと,天理教二代真柱によって提唱された都市構想が「八町四方構想」である.これは,教会本部の神殿周辺に病院や学習施設の入った一辺約870メートルの「おやさとやかた」とよばれる城郭建築を巡らせる計画である.1955年の八町四方構想の発表から2013年までにおやさとやかたの約38%が完成しているが,2005年以降の竣工および完成棟はなく,計画の進行は緩やかになっている.その理由として,①教会本部の財政問題②八町四方内部の土地を確保する上での問題が挙げられる.現在の八町四方内における約17%の土地は国や地方自治体,もしくは個人の所有であり,土地売買に際し,協力・競合のもと都市構想は進められている.今回の発表では,教会本部のみで遂行されている状態になっている都市構想の現状を明らかにするほか,地域住民の見解として,天理市における交通整備の発達以降門前町としての機能を持つようになったものの,八町四方内に位置するために立ち退きを強いられる三島アーケード街の店舗と教会本部との競合事例を提示する.これらを踏まえ,天理市における八町四方構想遂行における課題として,①天理教の宗教的世界観を実現のため,神殿内部にぢばを固定し,四方正面の構造を重視する等間隔・遠心的な聖地拡大に基づく都市構想が計画され,交通整備による土地利用変化に対応しづらい②「八町四方内部は聖域であり,俗物は排除されるべき」という元来の見解に対し,「陽気ぐらしの概念に反している」という疑問が挙がるなど,地域住民の本部に対する不信感の鬱積などが挙げられる.また,天理市の発達過程,宗教に関する国内の動向についてまとめると,政教分離の概念が「信教の自由」から「宗教団体による政治的圧力を防止すること」に比重を置かれるようになった1960~1970年代は,天理市が宗教文化都市をうたい,市と教団が一体となって「宗教都市」を創りあげていこうとした矢先であることから,③政教分離の風潮による地方自治体からの援助制限も考えられる.
Ⅲ.結論
 宗教の「聖」と都市の「俗」が強調した宗教都市づくりは,市制施行時から低迷しつつある.改善策として,天理市一体となった教祖の言説「神のやしろ(聖域)」についての再検討や都市構想の重要性の再認識が必要である.また政教分離の意義を問い直し,都市構想の周知拡大など,憲法に触れない教会本部への協力が可能であると考えられる.

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