日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 632
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発表要旨
三陸海岸北部の河床縦断形の特徴と地殻変動への応答
*大上 隆史
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抄録

三陸海岸北部の河川群の概略と研究目的
三陸海岸北部には中期更新世以降の継続的な隆起を示す海成段丘群が認められ,これらを下刻して発達する河川群の中には顕著な遷急点を有する河川が存在する.遷急点を有する河川は,隆起に伴って新しい河床縦断形に移行する途上のステージにあることが予想される.一方で,こうした遷急点はすべての河川に発達しているわけではない.遷急点が認められない河川では遷急点が既に消失したステージにある可能性も考えられる.本発表では三陸海岸北部の河川群の発達段階を具体的に検討するため,実際の河床縦断形と定常状態を仮定した河川縦断形を比較した.
ストリームパワー侵食モデルにもとづく平衡河川の河床勾配
河川流量と河床勾配の積として求められるストリームパワーは河川水が流下する際の仕事率であり,一般に河床の侵食速度はストリームパワーの冪関数として表現できると考えられている.河川流量の代替指標として各地点の上流の流域面積Aを用いると,侵食速度EE=KAnSm,と表現できる(Aは河床勾配,Kは係数).このモデルを用いると,隆起速度Uで隆起している地域の岩盤河川について,平衡状態に達しているときにはS=(U/K)1/nA-(m/n)という関係式を導くことができる(たとえばWhipple et al, 2000).すなわち,平衡状態にあるならばlog(S)=-θ×log(A)+log(ks) となり,log(S)log(A)の一次関数として表現できることを意味する(ただし,θ=m/nks=(U/K)1/n).
河床縦断形とS−Aプロットの作成方法
河床縦断形の作成にあたって,国土地理院が公開している数値標高モデル(10 mメッシュ)を使用した.計算にはUTM54座標系において20 m間隔で再サンプリング処理した数値標高モデルを用いた.流域解析を行い,流路となる各セルのXYZ座標と各地点の上流側の流域面積を算出した. また,流路長500 m毎に最近傍のセルを抽出し,各区間の平均勾配を計算した.上記のデータを用いて河床縦断形とS−Aプロット(横軸に ,縦軸に をとったもの)を作成した.
結果:遷急点を有する河川のS−Aプロット
有家川のS−Aプロットを見ると,上流から下流にかけてA~Cの3区間(A:概ね直線で回帰できる区間(緩勾配),B:漸移的な区間,C:急勾配の区間)に区分できる(図).区間Bと区間Cの境界が顕著な遷急点となっている.松沢川のS−Aプロットは区間Aと区間Cから構成され,区間Bが欠如,または認定が困難となっている.
結果:遷急点を認定できない河川のS−Aプロット
玉川のS−Aプロットをみると全体に上に凸状の曲線的な分布を示しており,遷急点が見られる河川のような区分は難しい.
三陸海岸北部と河床縦断形の解釈,考察
遷急点を有する河川の区間Aについて,S−Aプロットが概ね直線に回帰できることは平衡河川に近い状態にあることを示唆している.ただし,河床縦断形全体を見ると,区間Aは現在の隆起速度に適合したものではなく遷急点が形成される前の条件下で発達したものが残存・維持されていると見なすのが適当であり,遷急点および区間Cの上流側への移動に伴って河床縦断形が更新されていくことが予想される.区間Bの存在は,河床縦断形の更新は遷急点の移動のみによるわけではなく,遷急点付近の曲率が減少するような河床の侵食が同時に進行していることを示す.
  河床高度が上昇中の河川ではS−Aプロットは上に凸になると考えられており(たとえばChen et al., 2006),遷急点がみられない玉川の河床縦断形もこの特徴を有している. これらの河川の河床縦断形は三陸海岸北部の地殻変動,特に隆起速度の変化に伴って形成されてきたものである可能性が高い.また,河川毎の縦断形の特徴の違いは基盤岩の地質・物性によると考えられる.さらに流域間でのS−Aプロットの比較を進める予定である.
(引用文献:Whipple et al., 2000, Geol Soc Am Bull, 112, 490―503.Chen et al., Chi. Sci. Bull, 51, 2789―2794. )

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