日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0704
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発表要旨
名古屋市内における都市養蜂を生かしたまちづくりへの高校生の貢献
*上村 早江子梶原 英彦野中 健一
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抄録

1.はじめに−都市養蜂の取り組み
近年の日本では、都市内におけるミツバチ養蜂(都市養蜂)が広がっている。企業や商店街などが主体となって飼育管理を行うことが多く、全国各地に広がりつつある。都市の街路樹や園芸植物には蜜源植物が多く、養蜂に都合が良い。いっぽう、住民にとっては、ハチ刺害の不安も生じる。また、ミツバチの飼育は法令により適正な飼育管理が求められる。ハチミツなどの生産物はその土地のものとして付加価値がつき、さまざまな商品原料として用いることにより、新しい地産商品展開が可能となる。
本研究は、都市養蜂が環境や地域住民との関係などさまざまな制約を受けると考えられるなかで、事業がどのように成立しているのか、また、それをどのように有利に活用しているのかを、高校での実践事例をもとに明らかにすることを目的とする。  対象は、名古屋市内の高校屋上での都市養蜂と採取されたハチミツの商品化を事例とした。授業・クラブ活動として養蜂を行い、商品開発へと展開し、地域住民やそれを超えたさまざまなつながりができているのが特徴的である。調査では、きっかけと実現するための地域での了解過程、飼育管理、生産物利用、商品開発と販売を調べた。  
2.高校授業における養蜂
導入とプロジェクト展開
愛知県立愛知商業高等学校では、2011年度より屋上での養蜂が始められた。これは、3年次総合学習として展開される課題研究のひとつ「マーケティング研究」講座で「文化のみちのまちづくりへの貢献」を題して、まちづくりを学ぶテーマが設定された。これを選択した受講生が名古屋学院大学経済学部地域活性化研究室(水野晶夫教授)に協力を求め、講義を受ける中で、同教授が前年度より始めていた大学内の屋上養蜂に関心をもった生徒の発案により取り組むことになった
。  担当教員(梶原)による職員会議での説明と承認後、生徒が周辺地域への説明に回り了解を得た。そして同年6月より校舎屋上で飼育を開始し、採蜜を行うようになった。
2012年度からは、この活動は新たに創設されたマーケティングクラブに引き継がれ、現在に至っている。
3.養蜂とハチミツの活用
授業は、同校の立地する名古屋市東区徳川周辺の理解とその歴史文化を生かしたマーケティングと養蜂を通じた生態系向上やハチミツを使った商品開発などで地域活性化を目的とした。同校近くには徳川園庭園がありそれを蜜源として得られるハチミツは地域資源となり得ると期待され「徳川はちみつ」と名付けられた。そして、ハチミツそのものの販売ではなく、それを材料とした商品化によりさらなる地元産品の開発がめざされた。
初年度には東区内で、レストランでの利用や洋菓子店での製品化が実現した。2年目には、アイスクリーム商品開発を手がけ、陸前高田の米崎りんごを用いた「希望のはちみつりんご」アイスクリームとして販売されるようになった。3年目には、名古屋の伝統的和菓子ういろうへの使用が実現した。レストランでの利用、アイスクリーム、ういろうは、イベント商品ではなく、定番商品となっている。使用業者からは地元素材を用いたことによる新規顧客獲得やコミュニケーション向上につながったことなど評価されている。  
4.地域・社会への発信
理解を得ることのできた地域には、保育園児や小学生を対象としたミツバチ観察会・採蜜体験、公開イベントへの参加などを行っている。そして養蜂から理解できる生態系や環境保全の説明も行っている。また、陸前高田産りんごを用いたことにより東北大震災復興への協力も行い、販売売り上げの一部寄付、現地給食での活用、交流等が行われている。  
5.まとめ
実践的な活動により、生徒の主体性を増す教育効果が得られたが、ミツバチの管理、周辺の蜜源から得られたハチミツの味の季節差など生き物の特質により地域の自然環境への関心が高まり、また養蜂を受け入れてもらうための説明や商品化により、地域住民・社会・さらに広い人々とのコミュニケーションが広がった。商品開発・製造・販売においては、メンバーが全員女子であり、そのセンスが発揮された。養蜂とハチミツが軸となって、地域から周辺へさらに遠くとの場所的つながり、世代や属性を超えた人的つながりができた。

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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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