日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 405
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発表要旨
条件不利地域における人的支援の展開とその課題
新潟県小千谷市における地域復興支援員の活動を事例に
*渡邉 敬逸
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抄録

1.条件不利地域に対する人的支援制度の展開 戦後日本の条件不利地域に対する地域振興策は、過疎法に見られるように、地方自治体への施設整備を中心とする財政的支援を中心としてきた。一方、平成20年度から開始された総務省の集落支援員制度を嚆矢に、地方自治体がその地域振興を目的として登用する人材に係る各種経費に対して、国が財政的支援を行う人的支援制度が行われるようになっている。地域に対する見守り、地域活性化、地域復興、人材育成など、登用する人材の活動目標は制度によって多少の差異はあるものの、こうした人的支援制度による人材登用は平成24年度現在で全国約1400人を数える。また、国の支援によらず、地方自治体や民間団体が独自に行う局地的な人的支援制度も少なくない。人的支援制度を通じて登用された人材は、当該地域の住民と協働して地域に何かしらの変化をもたらす役割を期待されている。その点で,登用された人材の実践は地域変化において重要な役割を担っており,地域変化における人的関与という点から地理学の研究課題に位置づけられよう。

一方、これらの人的支援制度については、過疎法と同様に、その恒久性が担保されているわけではない。また、同一人材の登用は時限的であることが多い。一般的に条件不利地域は慢性的な人材不足に悩まされており、変化に対する順応力と回復力が脆弱である。そのため、人的支援制度が終了したり、登用人材が変わったりした後も、地域に生じた変化のダイナミズムが持続するか否かは不明瞭である。

2.研究目的と方法 こうした課題を踏まえ、本研究では人的支援制度の一つである新潟県中越地方における地域復興支援員制度を取り上げる。具体的な事例として新潟県小千谷市における地域復興支援員(以下、支援員)の活動プロセスを関係者に対する聞き取りと関係資料の分析から明らかにし、人材の登用による地域変化とその持続可能性について検討する。 平成20年度に始まった地域復興支援員制度は、平成16年10月に発生した新潟県中越地震からの復興支援を目的に、新潟県が出資する新潟県中越大震災復興基金により設立された人的支援制度である。平成24年度現在で中越地方5市に42名の支援員が配置されている。当初、同制度は平成24年度までの5年時限であったものの、平成24年度に制度の恒久化を視野に入れながら2年の時限延長が行われている。ただし、平成25年現在で恒久化についての具体的な見通しは立っておらず、いまだ状況は流動的である。また、平成24年度の時限延長時に多数の支援員の離職や配置転換が発生しているため、先に上げた人的支援制度の課題を検討する上で、適当な事例である。

3.小千谷市における支援員の活動とその課題 小千谷市における支援員の活動はコミュニティ支援グループと特産物販売グループに分かれ、前者に6名、後者に2名がそれぞれ所属している。さらにコミュニティ支援グループは中山間地支援担当とネットワーク支援担当に分かれて各3名が担当している。なお、コミュニティ支援グループにおいては平成25年度に4人が入れ替わっている。本研究では主にコミュニティ支援グループを分析対象とした。

平成20年から平成25年現在までコミュニティ支援グループの活動の大半を占めるのは地域運営支援に関わる事務作業であった。小千谷市は平成11年から平成20年まで、地域振興策として市内中山間地に市職員を配置し、地域運営に関わる庶務を担当していた。支援員導入の際にも地域側が同事業の継続を望んでいたため、コミュニティ支援グループは事務作業を中心とする地域運営に関わる庶務の大半を引き継いで、現在に至っている。地域に変化を起こしうる新しい活動としては、新潟県中越大震災復興基金に基づくコミュニティ支援メニューを活用し、各種イベント開催、直売所や農家レストランの運営、集落組織の改編、首都圏からの学生インターンの受入などが行われている。ただし、こうした新規事業の庶務もまた支援員の主な業務となっている。 このように、いずれの事業においても実施主体は地域住民であるものの、その事務処理を中心とする庶務を支援員が担っている。地域運営に関わる庶務は非常に多種多様であり、一朝一夕に引き継げる業務ではない。つまり、地域復興支援員制度が廃止された場合、小千谷市においては各種事業の停止による地域の停滞を招きかねない状況にあり、支援員の登用により生じつつある地域変化も持続的に継続するとは言い難い状況にあり、その対応策を早急に検討する必要があろう。

[付記]本研究はJSPS研究費25884097の助成による成果である。

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