主催: 公益社団法人 日本地理学会
1 はじめに
東日本大震災の復興過程のアーカイブについては,NHKの「東日本大震災アーカイブス」の中での復興の軌跡や(独)防災科学技術研究所を事務局とする「東日本大震災・災害復興まるごとデジタルアーカイブス」(略称:311まるごとアーカイブス)をはじめとして,様々な取組がなされてきた. 本研究では,近年,技術革新が進むUAV (無人航空機)を用いた空撮によって復興過程のアーカイブを行い,その有効性について検討する.また,発災時におけるUAVの活用可能性や地域への実装可能性についても検討を行う.本研究の直接のきっかけは,2012年5月に津波被害を受けた海岸林のデータ取得のために小型のUAVを用いた調査を行っていた際,地元のNPOの方から「被災時にこのような無人ヘリがあれば,被災状況の把握や生存者の発見に役立ったかもしれない」,「まちが復興していく様子を空撮し発信したい」といった意見や要望を受けたことである.
2 現地調査の概要
使用するUAVは,(株)情報科学テクノシステムのGrassHOPPERという6枚ローターの小型無人ヘリコプターである.対象地域は宮城県岩沼市沿岸域の玉浦地区とする.この地区では,6つの集落が津波により壊滅的な被害を受け,現在,内陸側の1ヶ所に移転する防災集団移転事業が進行している.空撮は,玉浦小学校の運動会や地元NPOによる復興イベントなどを対象に行った.また,防災集団移転地の変化についての定点観測も行った.撮影には,デジタルカメラ(RICOH GX200)とGoPro HERO2を使用した.
3 結果
図1にUAVにより空撮した画像を示す.左上の写真は,地元NPOが主催して2012年5月13日に行われたお田植え祭の様子である.この場所は津波を被っておりその影響が心配されたが秋には無事に収穫を行うことができた.左下,中上,中下の写真は,2012年5月20日に被災後初めて行われた玉浦小学校の運動会の様子である.この際には,お昼にUAVを紹介する時間が設定されており地域の方にUAVを身近に感じて頂くきっかけとなった.空撮によって取得した画像や動画は,小学校や地元NPOに提供し,広報等に活用して頂いている.右上,右下の写真は,防災集団移転事業の対象地である玉浦西地区の事業前と嵩上げ工事中の様子である.鳥瞰写真により工事前後の変化をはっきり捉えることができる.空撮画像は,単なる記録という意味だけでなく,撮影時のUAVの飛行自体がアミューズメント的効果を持っており,復興関係のイベントの支援にも有効であることが分かった.今後は,地元の要望に合わせた空撮を続けると共に,発災時に消防団の火の見櫓のように役立つ防災対応のUAVの開発や精密農業への応用可能性などについて,地域の方々との対話を通して検討する予定である.