日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 307
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発表要旨
GISによるマクロレベルでの宿泊施設の立地特性分析
*杉本 興運
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抄録

研究の背景と目的 
宿泊施設の分布や立地特性については,都市あるいは観光地の機能や形態を把握するための重要な指標の一つとしてみなされてきた.実際,いくつかの先行研究において,宿泊施設の種類や分布特性の変化の分析を通して,都市や観光地の機能や形態の変遷が論じられてきた.しかし,多くは定性的分析が中心で,宿泊施設の分布や立地特性を数理モデルによって説明しようとした試みは少ない.近年では,国土の計画や政策に対する地理空間的志向の重要性が周知され,国の政策としての地理空間情報基盤の整備を通し,国土の人工•自然環境に関する様々な空間データが数値情報として提供されている.また,民間企業などが独自に作成した多様な空間データも入手可能であり,研究目的に応じたデータの柔軟な組み合わせによって,様々な用途やスケールでの地域分析が可能な環境が整っている.本研究ではこうした空間データを利活用し,都市や観光地の交流・宿泊機能を有し,かつ観光客の行動拠点として重要な宿泊施設を対象に,その分布や立地特性を広域的かつ定量的に把握することを目的とする.
研究方法
宿泊施設の立地にどのような地理的変数が関係するのかを,広域関東圏(関東1都6県に長野県,山梨県,新潟県,静岡県を加えた圏域)で,かつ統計的に検証した.具体的には,宿泊施設の立地を目的変数,それらの周辺の人文・自然環境の特性や特定の政策区域・地物との空間的関係(距離など)を説明変数とした線形モデルを構築し,各説明変数の寄与度を調べた.目的変数となる宿泊施設のデータは国土交通省国土政策局から国土数値情報として一般公開されている宿泊容量3次メッシュを使用した.このデータは1km×1kmのグリッドポリゴンが縦横に並んだ空間データで,各グリッドに宿泊施設タイプ別(ホテル,旅館など10種類)の施設数,宿泊施設総数,宿泊容量,部屋数の属性情報が格納されている.説明変数には,周辺の観光資源や温泉資源などの数量,鉄道駅や河川など人工・自然の地物までの距離,気候や地形などの自然条件,建物や道路などの土地利用条件,海岸や河川など水系への距離,リゾート地域や人口集中地区への近接度などの指標をGISの演算機能で数値化したものを使用した.分析には,一般化線形モデル(GLM)と,変数の空間的な従属性や異質性を考慮した地理的加重一般化線形モデル(GWGLM)を使用した.
結果
施設数の圧倒的に多いホテルと旅館の分析結果を述べる.まず,ホテルの立地に大きく正方向に寄与していた変数は,周辺の観光資源とレジャー施設数,道路密度,周辺の温泉資源湧出量,DID人口集中地区への内包,平均標高であり,負に寄与していた変数は,鉄道駅からの距離,農業用地面積,森林面積,平均傾斜角度であった.旅館の立地に大きく正方向に寄与していた変数は,空港からの距離,高速道路インターチェンジからの距離,建物面積,周辺の温泉資源湧出量,平均傾斜角度,DID人口集中地区からの距離,負に寄与していた変数は,農業用地面積,森林面積,道路密度,平均日照時間,DID人口集中地区への内包と,ホテルの分析結果と類似する部分と大きく異なる部分(道路密度,傾斜,DID人口集中地区への内包)が存在する.また,特徴的な点として,周辺の温泉資源湧出量の影響力が非常に高かったことが挙げられる.しかし,GLMではモデル精度が高くなかったため,GWGLMを用いてモデル精度の向上を試み,同時に各変数における係数の空間的特徴を調べた.その結果,それぞれの宿泊施設に対する変数の影響の地域的差異 が明らかとなった.例えば,GLMで旅館の立地に最も大きく寄与していた周辺の温泉資源湧出量のGWGLMにおける係数は,東京都の大都市付近では負であったが,静岡県や長野県等では正となった.

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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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