日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0310
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発表要旨
Future Earth 計画における地理学の役割
*氷見山 幸夫
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抄録

1.はじめに 1980年代から世界的に本格化した地球環境研究は、今大きな転期を迎えている。IGBP, IHDP, WCRP, DIVERSITASの四大研究計画はICSU(国際科学会議)、ISSC(国際社会科学協議会)等が主導するFuture Earth(以下FE)計画の枠組みの中で2014年中に発展的に再編される。その背景には、これまで多くの研究がなされたにも関わらず、地球環境問題は解決に向うどころか年々深刻化しているとの悲観的な見方が多いことがある。その要因としては、世界人口の著しい増加や開発途上国などにおける急速な経済発展などを背景として、人と環境との関係に様々な軋轢が生じ、事態が深刻化していることなどがある。これを打破するには、従前型の自然科学一辺倒の研究体制では立ちいかず、学際的、更には超学際的な体制を組み、世界の持続可能性を高めるための研究を推進すべしというのがFEの基本的な考えである。これは、そのような研究を学術的にも評価すべきだということを意味する。2.Future Earthと地理学 FE発足の諸準備は暫定事務局長のキングズカレッジ・ロンドン地理学科Frans Berkhout教授の主導で進められている。他にも多くの地理学者がFEの発足に向け汗を流している。それは環境の科学、地域の科学、空間の科学、総合(学際)の科学という地理学の特性を考えれば自然なことであるが、地理学と地理学者の真価が今正に問われていると言える。 Future Earth 計画案は初期のものに比べ、より充実しバランスのとれたものになってきたが、まだまだ不完全である。地理学の目でこれをもう一度吟味し、改善の提案をすることは大切なことである。例えば、2013年末に出された最新版計画書Future Earth Initial Design (FE, 2013) で使われているいくつかの言葉の出現頻度を見ると、climate(82), biodiversity (48), ecosystem (45) などに比べ、natural resource (4), mineral resource (1) など、自然資源の扱いが弱いことがわかる。これについてはIGUも参加する地球科学関係の国際学会の緩やかな連合体であるGeoUnionsがFEに改善を提案する見通しである。またFEの成否の鍵を握ると目される教育について見ると、education (69) 重視の姿勢が鮮明である。多くの場合、広い意味でのeducation for sustainable development の意味で使われているが、ESD (0), environmental education (0) など特定の言葉の使用には極めて慎重である。日本学術会議は「フューチャー・アースの推進に関する委員会」の中に「持続可能な発展のための教育と人材育成の推進分科会」を設置し、「FEのための教育」の推進において国際的にリーダーシップをとる意思を鮮明にしている。ここでも地理学者が枢要な役割を果たしている。地理学コミュニティとして、地理教育の改善・普及だけでなく、ESDと環境教育の改善・普及にも積極的に取り組むことが期待される。3.日本地球惑星科学連合と地理学日本地球惑星科学連合(以下JpGU)は地理学が他の地球関連諸学会と出会い、協働する絶好の場となっている。特に東日本大震災や地球環境問題、FEなどの学際的課題に取り組む時にそれは大変貴重である。2014年4月28日~5月2日に横浜で開催されるJpGU 2014年大会には地理学者を含む7千名もの人々が参加するが、その大会の目玉になるであろう環境・災害のセッションとFEのセッションは、地理学者が関連分野の人々と共同で開催するものである。 2013年秋に公開されたIPCC第5次評価報告書 (IPCC, 2013)は地球温暖化による海面上昇や異常気象の増加と激甚化にこれまでにも増して強い警鐘を鳴らすものであった。地球環境問題と災害の増加を別個にではなく一連のものとして扱うことは、今や世界の潮流になりつつある。地理学者はそこでも主導的な役割を果たすことができる。

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