日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P823
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発表要旨
巡検に関するストーリー性をもった地理情報コンテンツの整備と効果
地理の一般普及の視点から
*早川 裕弌長谷川 直子佐藤 李菜
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抄録

1.はじめに地理的巡検は,地理学関係者あるいは地域の専門家を案内者として各所で行われているが,その実施される時期や対象者は限定的であり,必ずしも多くの人が参加できる機会をもてるわけではない。一方,SNS(ソーシャルネットワークサービス)などを介した情報集約と拡散は,実地における地理的巡検で紹介されるコンテンツ(知識)の広範な普及に資する可能性をもつと考えられる。そこで本研究では,オンラインで公開される地図をベースとして,インターネット上で仮想的に巡検を体験できるコンテンツを,ストーリー性をもたせたストーリーマップとして作成し,これを実世界でも位置的あるいは時系列的にフォローすることで,地理的巡検の仮想体験と実体験とを結びつけるワークフローを提案・検証する。
2.手法本研究手法のワークフローは,大別して1) 野外(実地)における巡検実施と,2) オンライン領域における巡検コンテンツの整備・公開とからなる(図1)。まず,野外において実施される巡検において,専門的な案内者により提供される各種情報を,写真撮影,音声レコーダおよびGNSS受信機で取得する。次に,「聞き書きマップ」を用いて,GNSS軌跡ログと時空間的に関連付けられた音声データから,位置情報を付与された各画像をキーフレームとして,それぞれにテキストデータとして情報を付随させる。こうして整理された画像,音声,テキストといったデータを,複数のオンライン地図あるいはARプラットフォーム(ArcGIS Online,PhotoField,StoryMap等)に投入し,それぞれの特徴を比較しつつ,ストーリー性に注力した巡検コンテンツを整備する。一方,野外巡検の参加者からは,SNS(Twitter)により現地での簡易的な文章および画像を,識別用のハッシュタグを付した上で投稿してもらう。これらは巡検実施後にオンライン上でとりまとめ,さらに上記で整備した巡検コンテンツに関連づける。作成したオンライン地図に基づく巡検コンテンツは,別のユーザからの現地利用を想定する。すなわち,野外において,オンライン地図に示されるストーリーを追跡するかたちで,実地において巡検コンテンツにアクセスし,個別の巡検を実施可能とする。また,この際のユーザの感想も,SNSを用いて収集し,巡検コンテンツの補完・補強に活用する。
3.結果と考察2015年6月に埼玉県和光市で実施した地理的な一日巡検に関して,実地におけるデータ収集と整理から,試験的なオンラインコンテンツを作成した。各種マップサービスの比較検討から,それぞれの利点・欠点を把握するとともに,本研究のワークフローを実行する上で最適な方式を提案した。これにより,巡検コンテンツの主体となる専門家による案内(専門知)が,地図上に時系列をもって配置され,多数の人がアクセスできるストーリーマップの有用性が示された。さらに,SNSによる情報集約により,参加者の立場としての付加情報(多様な意見・感想)が,集合知として巡検コンテンツの強化をもたらす可能性が示唆された。加えて,巡検コンテンツに限らず,より一般的な観光案内や学校教育などでの活用可能性も期待される。
謝辞 本研究はJSPS科研費(26560154)を使用した。

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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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