日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 507
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発表要旨
明治後期~昭和戦前期における日本のキリスト教分布と地域区分
*小田 匡保
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抄録
発表者は以前、小田(1999)やOda(1999)において、現代日本のキリスト教分布について検討した。そこでは、キリスト教全体やカトリック、(プロテスタント教派の一例としての)日本基督教団の信者分布を地図化し、最後にカトリックと日本基督教団の信者密度を基準に地域分類を行なった。

戦前期については、川田(1989)がプロテスタント教会の立地をたどっているが、本発表では、カトリックや正教会も含めて、明治後期~昭和戦前期における日本のキリスト教分布について検討する。資料は、『内務省統計報告』『文部省年報』『日本帝国統計年鑑』を利用する。これらには、明治33年(1900)(総数は明治32年)から昭和14年(1939)までの府県別・教派別宗教施設(資料では「会堂講義所等」)数が掲載されており、これを分布の指標とする。主な教派の宗教施設数の推移を概観した後、教派別に施設分布を地図化し、特徴を明らかにする。そして、施設数最多教派にもとづいて日本を地域区分する。

教派別宗教施設数は、明治32年(1899)には日本聖公会が最多で、日本基督教会、天主公教会(カトリック)、日本メソヂスト教会(当時は3教派に分かれており、明治40年に合同)、日本組合基督教会、日本ハリストス正教会と続いたが、昭和14年には日本基督教会が最も多くなり、天主公教会、日本聖公会の順になった。上記のほとんどの教派は、明治32年から昭和14年にかけて施設数は増加傾向にあるが、日本ハリストス正教会のみ、大正7年(1918)をピークとして減少に転じている。

府県別データを地図化すると、キリスト教全体では東京、大阪・兵庫・京都、長崎・福岡に宗教施設が多いことが分かる。天主公教会は長崎に圧倒的に多いが、昭和14年には東京、北海道の増加も目につく。日本ハリストス正教会は東日本に多いが、特に岩手・宮城に集中している。日本聖公会は北海道、東京、大阪に多い。日本基督教会は比較的まんべんなく分布しているが、特に東京、大阪に多い。日本メソヂスト教会は、東京の他、長野、静岡に集まっているのが特徴である。日本組合基督教会は、近畿地方と岡山、群馬に多い。浸礼教会(日本バプテスト教会)は東京、大阪、兵庫に多く見られる。

明治33年と昭和14年それぞれについて、施設数最多教派により府県を地域分類すると、かなり複雑に入り組んだ地図になる。府県別でなく地方別にまとめたデータを使えば、日本聖公会、日本基督教会、日本メソヂスト教会、日本組合基督教会、天主公教会からなるシンプルな地図が描けるが、誇張が激しい。両者の中間程度の地域区分を案出したい。

なお、戦後との比較に関しては、宗教施設数と信者数という指標の相違を考慮する必要がある。また、プロテスタントの各教派は、昭和16年に合同して日本基督教団を結成しており、戦後の分離もあって、厳密な比較は困難である。

文献
小田匡保 1999. 日本におけるキリスト教の分布. 日本地理学会発表要旨集56: 210-211.
川田 力 1989. 日本におけるプロテスタント・キリスト教会の立地過程:明治期・関東地方を中心として. 地理科学44 (4): 207-222.
Oda, M. 1999. Distribution of Christianity in Japan. The Pennsylvania Geographer 37(1): 17-32.
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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