抄録
2012年の中央教育審議会総会において示された,いわゆる「質的転換答申」に基づいて,主に大学教育においてアクティブ・ラーニングの充実が進んでいる。この答申に連動して示された「高大接続答申」,いわゆる大学への入試制度改革に伴って,全国の小学校・中学校・高等学校においてもアクティブラーニングの導入が検討されており,そのツールとして,学校教育において教育ICTが推進されている。義務教育課程である小中学校では,「1人1台の情報端末」を謳った学びのイノベーション事業によって,教室に1台の電子黒板や,1人1台のタブレット端末が配布されるなど,ICT機器の導入が進んでいる。また,それを支える手段として,多くの教科書出版社がデジタル教科書を提供している。2011年に示された「教育の情報化ビジョン」に基づけば,文部科学省が2020年までに高等学校を含めた多くの学校で、タブレット端末を生徒1人1台が所有する環境で授業を実施することとなっている。2020年までに,どれだけの学校で「1人1台の情報端末」が達成されるかは不透明だが,アクティブラーニングと同時に検討された「大学への入試制度改革」が実施されることは決定しているため,近いうちにアクティブラーニングが導入され,そのツールであるICT機器を利用することの意義,有用性が高まることは,明らかである。
地理教育においては,MANDARAや地図太郎,Google Earthをはじめ,地理教育の現場で従来から用いられている様々なGISをベースに,ICTの推進が行われてきた。しかし,GISを活用した実践事例は非常に数多く見られるものの,生徒自身がICT機器を駆使している事例を目にする機会は,わずかである。しかし,文部科学省が掲げているのは「1人1台の情報端末」を駆使する環境の整備である。そこでより一層,1つのツールであるICT機器を駆使する体制を整えておくことで,アクティブラーニングや合教科型の新しい入試制度が実施された際も,地理教育が学校全体のICT化,アクティブラーニングを牽引できるのではないだろうか。
発表者は,昨年8月20日に広島市を襲った8.20豪雨を題材として,生徒がiPadやPCを活用した授業を実践した。本校は,広島市安佐北区可部東に位置しており,校内の施設でも被害が発生している。生徒自身が豪雨被害に遭遇したという経験を中心に据え,また情報科や理科といった他教科で学習する,防災に関わる内容を,ICT機器を活用することで生徒自身が整理し,様々な防災への取り組みについての問題点を考察した。
発表者が実践している防災に関する授業を中心として,高校地理の授業をデジタル化することによって,アクティブラーニングや合教科型入試の実施に向けて,地理教育はどのような実力を発揮することが出来るのか,また授業をデジタル化することによって,授業の何が変わり,何が変わらないのか,さらに,どのような点に気をつけるべきかを検証する。