日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 215
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発表要旨
不動産データベースからみる東京都区部における居住地選好の多様性
*上杉 昌也
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抄録
I 背景と目的 居住分化のプロセスを理解するための重要な要素の一つとして,ローカルな住宅市場を通じた居住者の居住地選好が挙げられる(Hwang 2015).今後も一定規模の居住者を収容し続けると想定される東京都区部では,共同住宅に居住する持ち家世帯数の増加が顕著であり,都市地理学分野でも富田(2015)を始めとしてマンション居住者の居住地選好に関する研究は増えつつある.しかし東京都区部では,2000年代以降も共同住宅世帯の半数を占めているのは民間賃貸住宅であり(住宅・土地統計調査),居住者の選好も持ち家マンション世帯とは異なるものと考えられる.本研究では,アンケート調査よりも広範囲で客観的な傾向が把握できる大規模不動産物件データベースを用いて,民間賃貸住宅市場と分譲住宅市場の賃料・価格形成要因の違いなどサブマーケット別の居住地選好の差異を明らかにし,その空間的異質性を明らかにする. II データ 対象地域は上記の背景を踏まえ東京都区部である.不動産物件データはアットホーム株式会社が作成した「不動産データライブラリー」を用いており,2010年10月に登録された共同住宅(賃貸は「貸アパート」・「貸マンション」,分譲は「売新築/中古マンション」)を抽出したうえで重複する物件は除いた.物件属性として賃料・価格のほか,所在する町丁目名,最寄り駅・路線・徒歩時間,延べ床面積,築年数,建物階数・所在階,物件情報登録日などが含まれる.属性不明等を除いたサンプル数は賃貸が72,052,分譲が1,962である.さらにその他の地区情報として,所在する町丁目の最寄りの山手線駅までの距離,最寄り公園までの距離(国土数値情報),業種別の事業所密度(経済センサス),ホワイトカラー従業者割合(国勢調査)なども地区変数として用意した. III 分析方法 初めに賃貸・分譲住宅別にヘドニック法を用いて家賃・価格関数を推計し,その構造の違いを明らかにする.ここで被説明変数は物件賃料・価格の対数値,説明変数はIIで挙げた物件属性や地区特性である.家計によって属性に対する価格付けが異なることを考慮し,均質な選好を持つ家計群ごとに市場を分割して価格関数が推定される(清水・唐渡2007).本分析では特にサブマーケット(住宅所有形態,単身者・ファミリー用1),地区のホワイトカラー従業者割合など)による賃料・価格構造の多様性に着目する.  続いて賃貸・分譲による賃料・価格構造の違いを踏まえたうえで,今度は民間賃貸住宅に焦点を当て住宅価格構造の空間的特性を詳しく見るため,サブマーケットの空間単位として東京都市圏パーソントリップ調査の計画基本ゾーン別の推計を行い,推計されたパラメータの空間分布や地域特性との関係について分析する. IV 結果 賃貸・分譲住宅ともに基本属性に関しては,賃料・価格に対して最寄り駅や山手線駅への近接性や築年数の浅さの正の効果など従来想定される結果が得られた.一方,賃貸住宅では医療・福祉事業所密度を除いては事業所密度の高さは正に有意であるのに対し,分譲では有意にはならず,むしろ路線ダミーの効果が大きい結果となった.また地区のホワイトカラー従業者割合が高い地域ほど,事業所密度や用途地域は賃料(民間賃貸)に対して敏感である. さらに推計されたパラメータの空間的異質性も明らかになった.例えば最寄り駅までの徒歩時間の効果は港区や江東区などの地域に高い地区がみられ,このような地区では他の地区よりも相対的に利便性が重視されると考えられる.考察では,地域特性との関連やサブマーケット別の違いについても考慮する. 注 1) 延べ床面積30平米未満を単身者用,それ以上をファミリー用とした. 参考文献 清水千弘・唐渡広志2007.『不動産市場の計量経済分析』朝倉書店. 富田和暁2015.『大都市都心地区の変容とマンション立地』古今書院. Hwang, S. 2015. Residential segregation, housing submarkets, and spatial analysis: St. Louis and Cincinnati as a case study. Housing Policy Debate, 25(1), 91-115. 付記 本研究は東京大学CSIS共同研究(No. 588)による成果の一部であり,「不動産データライブラリー」データ(アットホーム株式会社提供)を利用した.
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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