抄録
1950年代以降,農業近代化政策やエネルギー革命によって社会環境が大きく変化し,それまで燃料採取の場であった丘陵地(ヤマ)の価値は下落していった.同時に、大都市近郊では,地価が上昇したため地権者の金銭的な負担が増大した.結果、都市近郊の丘陵地で大規模開発が進むこととなった.大規模住宅団地,レジャー施設,大学などの教育施設や廃棄物処分場が次々に建設され,今日に至っている.開発の際には,高い金額で土地が売買された. 都市域の拡大に伴う開発,地域住民の暮らしの変化,丘陵地(ヤマ)の価値の下落という,様々な社会環境の変化は,丘陵地の在り方に大きな変化をもたらした.そうした開発が進む中で,消えつつある緑を保全しようとナショナル・トラスト活動などが誕生し,市民による緑地保全の活動が進展した. 本発表では,こうした丘陵地の開発問題の経緯を整理し,その中でナショナル・トラスト活動団体を初めとする市民の活動が,地域の自然をどのように評価してきたのか,その位相を明らかにし,人と自然との関係性の中で,丘陵地の自然の価値について論じる.