日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 311
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発表要旨
360度画像の緑視率を用いた街路樹把握の試み
―オブジェクトベース画像解析を活用して―
*山本 遼介泉 岳樹松山 洋
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抄録

1 はじめに

都市における緑は,大気汚染やヒートアイランドの緩和,生態系や生物多様性の保持等の効果を持つとともに,景観を形成したり,環境意識を高めたりする役割を持つため,その実態を把握することは重要な課題である.例えば東京都特別区においては,各区がおよそ5年に1回の頻度で「みどりの実態調査」と呼ばれる緑地調査を実施している.この調査をはじめ,緑地の実態を把握する方法として,おもに現地調査と航空写真判読(リモートセンシング)が行われている.現地調査は緑地の詳細な状況を把握するのに適するが,多くの時間や労力を要する.一方で航空写真判読は,コンピューターや目視により緑地を判読することで,広範囲を一定の基準で簡便に調査できる.しかし,上空から見える緑地の平面的広がりを捉えているため,密集した街路樹などを捉えることは難しく,人間が感じる緑の量とは一致しない場合がある.

そこで本研究では,広範囲の緑を地上から迅速に把握する手法として,車載型のシステムを用いて360度の画像を取得し,画像解析による街路樹の把握を試みた.

 

2 研究手法

対象地域は,中杉通りなどの特徴的な街路樹を持つ東京都杉並区とした.360度画像の取得は,モバイルマッピングシステム(MMS)である(株)トプコン製のIP-S2 Liteを用いた.このシステムでは,車両のキャリア上に6台のカメラを搭載し,全天球の画像を毎秒16枚取得することができる.中杉通り北側,中杉通り南側,高円寺駅前の街路,五日市街道の4つの区間を対象にデータを取得した.

本研究では,緑の概況を把握する指標として「緑視率」を用いた.緑視率とは,画像内に占める緑地面積の割合であり,一般的にはデジタルカメラの画像を用いて算出され,人間が感じる緑の量を表すとされる (例えば杉並区 2008).本研究では360度画像から緑視率を算出し,また比較のため,一般的な手法であるデジタルカメラの画像からも緑視率を求めた.

緑地の抽出は,オブジェクトベース画像解析を用いた教師付き分類により行った.具体的には,画像をオブジェクトに分割するセグメンテーションを行った後,オブジェクトの輝度値の平均および標準偏差,色相,彩度,明度,および緑色域(G)の割合を閾値として緑地を抽出した(図1).その後,緑地の面積を全体面積で除し,緑視率を算出した.



3 結果

MMSによる画像から算出した緑視率は,樹冠の大きな樹木の多い地点で高く,樹高が小さく樹冠の小さい地点で低かった.デジタルカメラによる画像から求めた緑視率と比較すると,MMSでは360度の方向を連続撮影できるため,緑視率は連続的に変化した.一方でデジタルカメラは撮影地点や画角が限られるため,緑視率は地点や方向により値が大きく変化した.また360度画像は全天球を範囲に含むため,緑視率はデジタルカメラ画像による値より小さい傾向が見られた.

また,航空写真から算出された正規化植生指標(NDVI)および,レーザースキャナと輪尺により測定した樹高・胸高直径の平均値について,緑視率との相関係数を求めたところ,MMSによる画像から算出した緑視率は,NDVIおよび樹高・胸高直径との間に正の相関が見られた.すなわち本研究で提案した手法は緑の量を表す指標として利用でき,おおよその樹高・胸高直径を推定できる可能性が示唆された.一方でデジタルカメラ画像から算出した緑視率については相関が見られなかった.

本研究ではMMSにより取得される画像を用いて緑視率を算出したが,今後は360度画像のみを取得する,より簡易的な手法を検討していく予定である.

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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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