抄録
Ⅰ はじめに
現代の日本において,スマートフォンやPCを用いたコミュニケーション(=サイバーコミュニケーション)が活発に行われていることは,あらためて指摘するまでもない.このようなコミュニケーション行為の局面は多岐にわたるものと考えられるが,代表的な利用シーンの一つとして,学生同士のSNSや地図サービスの使用が想起される.これらサイバーコミュニケーションは,一般にその内部だけで完結していると見なされがちであるが,一方で物理空間でのコミュニケーションや行動と分かちがたく結びついている面もある.特に,学生同士によるコミュニケーションの場合,学校という空間を共有していることが前提となるため,彼らのサイバーコミュニケーションは,物理空間での行動と結びついた形で存在していると考えられるだろう.
この点で,サイバーコミュニケーションと空間行動がどのような関係性にあるのかを検討することは,重要であると思われる.本研究では,学生を対象としたアンケート調査の結果を用いることによって,この二者間の関係性を探りたい.また,その連関が表れる事例として,学生による自動車の共同利用(=相乗り)と,それが生み出されるプロセスに着目する.
Ⅱ 研究手法
本研究では,福岡都市圏に立地する久留米工業高等専門学校の学生3~5年生652人を対象として,1)対象者の基礎的属性,2)サイバーコミュニケーションをどのように用いているのか,3)相乗りなどの空間行動をどのようなコミュニケーションプロセスのもと行っているのか,を問うアンケート調査を実施した.また対象集団への参与観察を行い,回答を解釈する参考とした.
Ⅲ 学生の自動車利用とサイバーコミュニケーション
まず,彼らが置かれた地理的コンテクストを見ておきたい.同校では久留米市から通学する学生は二割程度であり.多くの学生が福岡市周辺や筑後一円など広範な地域から通学しているが,その中でも約半数の学生が,車やバイクを通学手段として用いている.通学に利用していない場合でも,買い物や用事などで自家用車を利用することは多いことから,自家用車は彼らにとって都市空間を移動するために必須のツールであると言ってよいだろう. また,多種多様な場所から通学する彼らにとって,友人との連絡や会話はサイバーコミュニケーションを通じて行われることが必然的に多くなる.つまり,学校という物理的空間を共有することで形成された関係の維持に,地理的因子に左右されないサイバーコミュニケーションが活用されているのである.
こうした文脈から見ると,相乗りはサイバーコミュニケーションと空間行動の関係性を表象する行動の一つであることがわかる.彼らは飲食や交遊などに向かうとき,相乗りという手段を用いることがあるが,その空間行動を実施するプロセスにおいて,特定の時間や空間に依存しないサイバーコミュニケーションが,頻繁に用いられている.つまり,サイバーコミュニケーションは高度な時空間の同期を要する相乗りという行為の一部を成しており,彼らが都市空間を消費するための資源となっているのである.
Ⅳ おわりに
以上のことから,サイバーコミュニケーションは独立した事象ではなく,人々の空間行動の中で用いられていると見ることができるだろう.サイバーコミュニケーションは人々の物理的交流を一部代替することで,人々の空間行動を改変する役割を有しているのである.このような関係性は様々な状況で見出されると思われるが,今後はその相互作用の中で生み出される行動が,どのような性質を持っているのか,そしてどのような都市空間を指向するのかについて,より詳細に検討していく必要がある.