日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P018
会議情報

発表要旨
長野県青木村における地すべり地の地形・地質特性
*小宮山 翔子苅谷 愛彦岩田 修二
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

◆はじめに 長野県東信地域の青木村(標高550~1600 m)では,村域の各所に地すべり地が発達する(図1)。同村の地質は新第三紀堆積岩類からなり,全般に急峻な地形が優占する。このため今後も地すべりが新たに発生したり,既存の地すべり地が再滑動したりすることが想定される。同村の地すべり地について,分布の概略は防災科研(地すべり地形分布図)により示されているが,形成年代や地質との関係に言及した研究はほとんどなく,自治体の地すべり対策も十分ではない。演者らは,同村における地すべり地の分布や地すべり地内外の微・小地形を詳細に把握し,地すべり地の地形・地質特性や地すべりの素因を明らかにした。地域・方法 青木村の新第三紀堆積岩類は,古い順に別所層,青木層及び小川層からなる。別所層は頁岩,青木層と小川層は泥岩や砂岩,礫岩の互層である。これらの地層は村域の南半では北北西-南南東方向の緩やかな背斜・向斜構造を示し,北半では北-北西方向に20度前後で傾く。堆積岩類を貫く安山岩質の貫入岩もみられる。本研究では,空中写真判読や踏査,テフラ分析を行った。結果(1)各所に地すべり地が分布する(図1)。村域面積57.2 km2に対し,地すべり地の総面積は12.3 km2である(分布面積率=約21.5 %)。(2)各地質における地すべり地の分布面積率は,別所層(40 %),貫入岩(24%),青木層(15 %),第四系未固結堆積物(11 %),小川層(2%)である。貫入岩は塊状砂岩とともに下位の地層を覆い,キャップロックを成すことがある。(3)複数の地すべり地が集合し,1つの大きな地すべり地を成すものが6地点確認される:①子檀嶺岳北西麓地すべり地(KNW-1~4),②子檀嶺岳北東麓地すべり地(KNE-1~2),③原池地すべり地(HIK-1~4),④夫神岳北西麓地すべり地(OKM-1~9),⑤深山地すべり地(HKY-1~3)及び⑥入奈良本地すべり地(INM-1~4)。(4)これらの地すべり集合体では,地すべり移動体の面積が大きいほど地すべり移動体の斜面傾斜角が小さくなる傾向がある(例,INM-1:移動体1.2 km2,傾斜11°,KNE-1:移動体0.2 km2,傾斜24°)。ここでの傾斜角とは移動体の下端と上端とを結んだ見とおし角である。(5)地すべり集合体のうち,総面積が最大(3.8 km2)かつ最も典型的な地すべり地形を呈するINMにおいて,移動体を覆うテフラ層を発見した(Loc.1,図1)。このテフラ層は黒雲母や石英,角閃石を含み,断層変位や褶曲変形を受けている。考察(1)地質ごとに地すべり地の分布頻度が異なり,古い地層ほど地すべりを多く発生させている。すなわち,青木村の地すべりは明らかな岩石制約を受けている。特に,別所層(頁岩)は劈開性が強く,岩盤の滑動をもたらしやすいと考えられる。(2)これとは別に,貫入岩や塊状砂岩がキャップロックをなす地点では地すべりの滑落崖がおおむねキャップロックとその下位の軟弱な堆積岩との境界に位置する(KNE,KNW,INM)。このような地点ではキャップロック型地すべりが発生したと考えられる.(3)多くの地すべり地では,地層と斜面の傾斜角及び傾斜方向が揃う。このため流れ盤地すべりも発生していると考えられる。(4)地すべり移動体の面積や傾斜角との間に一定の関係がみられる要因として,二次地すべりの発生による移動体の細分化や,流水侵食による移動体の開析に伴う減傾斜化があげられる。他地域の事例で指摘されているように,青木村の地すべり集合体でも初生地すべり発生後の経過時間が長いほど移動体の面積が増し,傾斜角が減少している可能性がある。(5)Loc. 1のテフラ層は,その層序や層相,組成鉱物から大町APmテフラ群に同定できる。同テフラ群は青木村の北東約30kmに位置する大町市大町スキー場を模式地とする300~350 ka の広域テフラである。Loc. 1でAPmテフラ群に生じた断層変位や褶曲変形が地すべりによるとすると,INMでは更新世中期以降に初生地すべりまたは二次地すべりが発生したことになる。なお,OKMでは地すべり移動体を覆う立山D(99 ka)以降のテフラが確認されているが,地すべりの活動時期は不明である。

著者関連情報
© 2015 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top