日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1702
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インドにおける都市化と都市システムの再編
*日野 正輝宇根 義己
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抄録


インドにおける都市化と都市システムの再編

Recent Urbanization and Transformation of Urban System in India

日野正輝(東北大)・宇根義己(金沢大)     
M. HINO(Tohoku Univ.) and Y. UNE(Kanazawa Univ.)



1.検討課題

インドは1991年の新経済政策(本格的自由化政策)以降長期にわたって相対的に安定して経済成長を遂げてきた。その過程で,デリー,ムンバイーをはじめとする大都市は,驚くような郊外開発を進め,そこに外資系企業の集積を導くなどグローバリゼーションとの関係を強めてきた。その点では1980年代後半以降の東南アジアのメガシティの形成に関して小長谷(1997)が提唱したFDI型新中間層都市との類似性が認められる。しかし,東南アジアの大都市と違った側面も有する。そこで,1990年代以降のインドの都市化を概観し,その特質について検討したい。

加えて,都市化の特質とも関係するインドにおける都市システムの階層体系の特徴についても概観する。ここではとくに1990年代以降顕著になった大手企業の全国規模の販売網の形成と都市の階層分化の関係を検討したい。

2. インドの都市化の特徴

1)低位の都市化水準

発展途上国に都市化の特徴として,都市化水準(都市人口の対総人口比率)が低い段階での大都市への人口集中が指摘されてきたが,インドもこの点は当てはまる。しかし,中国,タイなどと比較すると,経済発展にもかかわらず都市化水準が低位にある点が指摘できる。2010年現在の中国,タイ,インドの都市化水準は49%,44%,31%である。人口統計調査における都市の定義の問題も考慮する必要があるが,上記の数値から,インドの都市化水準が低いことは明らかである。その理由として,出生率が依然として高い水準にあること,および国内人口移動率が低い点が指摘できる。

2)大都市の急成長

都市人口に占める大都市の比率が高い。卓越都市バンコクに一極集中するタイとは違って,インドは複数の大都市が国土に分散立地する。その結果,都市の順位・規模分布はランクサイズルール型に類似したパターンを示す。しかし,都市人口の上位都市への集中が進行している。例えば,インドにおける人口1千万以上のメガシティの総都市人口に占める比率(15%,2010年)は中国(8%)に比べてはるかに高い。また,他の大都市の成長も著しい。

3FDI型新中間層都市と過剰都市化

上記した急成長する大都市圏の様相はFDIに牽引された郊外開発に特徴づけられる。そして,そこにFDI型新中間層都市の特徴を見いだすことができる。しかし,インドの大都市郊外には,工業団地に加えて情報通信産業などが集積するオフィスパークが開発されている。また,郊外のインフラ整備が大企業の本社立地を導く傾向がある。一方で,インフォーマルセクターの増大が続き,住宅供給においても,Informal settlementと呼ばれる住宅地が多数を占める。その点では,FDI型新中間層都市の特徴とともに過剰都市の側面を依然として併せ持った都市化と理解できる。

3. 都市システムの再編

インドの都市の経済力は必ずしも人口規模に対応しない。コルカタの都市圏人口は1千400万人を超え,現在もムンバイー,デリーに次ぐインド第3の都市である。しかし,コルカタは大企業本社の立地数ではチェンナイに劣る。また,FDIの件数では,ベンガルールなどにも後れを取っている。そのため,都市システムの骨格をとらえづらいところがある。しかし,全体像を理解する上では,インドを東西南北に4区分する地域区分と州区分に対応させて理解することが有効である。東西南北の4地域の中心都市(広域中心都市)をコルカタ,ムンバイー,デリー,チェンナイとし,そのもとにそれぞれの地域内の各州都を位置づけ,他方,4広域中心都市の上に全国中心都市としてデリーとムンバイーを配置する形である。これを概略図にして,指標および地域ごとに修正・加筆する形で詳細図を描く。大手企業の全国規模の販売網も,上記した階層的な地域区分に従った形で組織されている。その点では,大企業の成長に伴って都市の階層分化が進むとみられる。しかし,経済力のムンバイーへの集中の程度は相対的に低い。また,南インドのチェンナイ,ハイダラバード,ベンガルールの3都市は競合関係にあって,地域における都市の拠点性も流動的である。      

 
参考文献

小長谷一之(1997):アジア都市経済と都市構造. 季刊経済研究,20(1),61-89.

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