抄録
本研究は、ベトナム・ホーチミン市一帯を対象として、どこからどこまでどのようにマングローブ湿地が利用されているのか、地域住民による水路利用を指標として湿地利用の内容と地理的範囲を把握し、マングローブ湿地空間を捉える視点を広げることを目的としている。
マングローブは、熱帯・亜熱帯の感潮域に分布する植物の総称である。海岸線に線状に分布するイメージの強い植物であるが、低平な土地が広がり、かつ潮位差が大きいような立地条件下では、分布域は内陸にかけて広がり、面的なものとなる。
本研究で対象としているホーチミン市一帯は、ドンナイ・サイゴン川水系に属し、潮汐営力が卓越した立地型であるため、海岸線からおよそ6・70㎞程度内陸までが感潮域となっており、広範にマングローブを確認することができる。
こういった平野の一部を為すマングローブ分布域は、同時に人間の居住地する空間となっており、種々の人為が働いていると考えられるが、既往の研究において、こういった、マングローブが分布するマングローブ湿地の利用空間については、あまり取り上げられることがなかった。
そこで、本研究ではこの範囲を当該地域のマングローブ湿地として捉え、次の3つの調査・分析を行った。
(1)観察や聞き取りによる地域住民の湿地利用の把握
(2)(1)によって把握したマングローブ湿地利用の内の水路利用を指標にホーチミン一帯の41集落に対して湿地利用度評価を実施し、集落を類型化
(3)GISを用いたマングローブ湿地利用度別の地域区分図の作成
この一連の調査と解析によって得られた知見を基に、マングローブ湿地利用の場所性と構造性を捉えたい。