日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 424
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発表要旨
2014年トロント市議会議員選挙におけるポルトガル系議員の活動とエスニック住民の居住分散
*高橋 昂輝
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抄録

2014年10月27日,トロント市地方選挙が実施された。同選挙では,小選挙区毎の住民投票によって,市長,市議会議員,教育委員会理事が選出される。議員選挙においては,市内全44選挙区から,各1名の議員が選出される。本発表では,ポルトガル系住民の集住地区に合致する,第18区(ward 18)を取り上げ,選挙区内における集住形態の変化とポルトガル系議員の選挙活動に焦点を当てる。  北米の都市では,これまでもエスニック集団の居住地域と選挙区の関係が議論されてきた。しかし,それらの大半は,計量的手法に依拠した政治地理学的研究であった。本発表は,単一のエスニック集団に注目するとともに,特定の選挙区をインテンシブに調査することにより,現職のポルトガル系議員の選挙活動とポルトガル系地域住民との関わりを明らかにする。現地調査は2014年6月,および10月に実施した。現地では,聞き取り,参与観察,景観観察,および資料収集をおこなった。Globe and Mail,Toronto Starなどのホスト社会系新聞のほか,エスニック新聞や各候補者の選挙フライヤーなども収集した。  1960年代以降,ポルトガル系移民は,インナーシティとして位置づけられるトロント市中心西部に集中的に居住してきた。1981年のセンサスにおいては,ポルトガル系住民が地区内全住民の40%以上を占めた。しかし,社会経済的地位の上昇,一世の高齢化など集団内部の変化により,その後,居住域は分散を開始した。さらに2000年代以降,ジェントリフィケーションが進展し,ポルトガル系住民からジェントリファイアーへの住み替えが進行している。しかし,ポルトガル系住民は減少傾向にはあるものの,全住民の約20%を占め,依然としてこの地区の最多数派集団である。  トロント市議会におけるポルトガル系の進出は,1988年におけるMartin Silva氏の第4区(当時)での当選以降に確認される。当時の第4区は,ポルトガル系集住地区の東半分に概ね相当した。同氏は,ポルトガル系ラジオ番組のパーソナリティを務めた人物であり,初当選以後,3期9年(1988~1997年)に渡り,地域住民の信任を得た。他方,1994年の選挙では,集住地区内西部の第3区(当時)において,Mario Silva氏が初当選した。すなわち,1994~1997年間にはポルトガル系集住地区全域において,ポルトガル系議員(2名)が選出された。しかし,1998年におけるトロント市の広域合併に伴い,1997年の選挙では,選挙区割りが改定された。選挙区数の減少,およびそれに伴う区域の拡張がおこなわれ,1区当たりの定数が1から2に見直された。この結果,両ポルトガル系議員は同一の選挙区において2つの議席を争うこととなった。選挙の結果,Mario Silva氏がイタリア系候補者に次ぐ2位で当選した一方,Martin Silva氏は3位となり,落選した。また,2000年には,再び選挙区割り,および議席数が見直され,現在の44区44議席となった。Mario Silva氏は,この選挙において第18区から出馬し,勝利すると,任期が満了した2004年にはこの地域の代表として国政に進出した。  市政を退いたMario Silva氏に代わって,2003年の市議会議員選挙では,彼の秘書を務めたAna Bailão氏が27歳の若さで立候補し,全体の40%以上の票を得たものの,惜敗した。しかし,2010年の選挙において,Bailão氏は再び立候補し,当選を果たした。同氏は,2014年においても,第18区から立候補し,再選を目指した。現地調査では,Bailão氏の選挙活動の内容にくわえ,その活動がおこなわれる場所に注目した。調査の結果,彼女の選挙活動は,エスニックフェスティバルなどのポルトガル系行事を最重要視するとともに,同郷組織との密接な連帯が彼女の重要な支持基盤を形成していることがわかった。また,選挙ボランティアの構成においても,ポルトガル系人が相当数を占め,ポルトガル系議員と地区内における同胞住民の密接な関係が明らかになった。他方,近年,増加するジェントリファイアーを中心に支持を集めたのは,所謂,白人ミドルクラスの弁護士Alex Mazer氏であった。両者の得票数は拮抗したものの,Bailão氏が僅差で勝利し,再選を果たした。両候補者を中心とした,2014年における第18区の選挙戦は,ポルトガル系地区の現況を如実に映し出した。  今日,ポルトガル系住民とジェントリファイアーが混住化する同地区では,選挙戦において,両者の文化的・社会的差異が鮮明化する。インナーシティの選挙区に焦点を当て,議員選挙を分析することによって,多民族都市トロントの今日的動向を議論する。

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