日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P063
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発表要旨
旅行ガイドブック出版数と観光客数の地域的特徴について
*横山 俊一長谷川 直子谷口 智雅
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抄録

1. はじめに
筆者らは2013年春から研究グループを立ち上げ(水と人の地誌研究グループ)、地誌学的な視点の一般への普及の手段として、地誌学の視点から地域を総合的に理解する旅行ガイドブックを作成・出版することを目標に活動している(長谷川ほか2013)。本研究は地理学的視点を取り入れたガイドブックを作成するため関連分野の書籍を対象とした出版状況を把握し、その地域的特徴の一端を考察することを目的としている。
2014年春の日本地理学会において筆者らはガイドブックで取り上げられている地域の特徴について明らかにした(横山ほか2014)。これにより取り上げられる地域には偏りがあり、特に東京都を対象地域とした書籍点数が最も多いことが明らかになった。同年秋の日本地理学会においては東京都を扱っている旅行ガイドブックが都内のどのような地域を対象としているのかを明らかにした(横山ほか2014)。そこで本研究では都道府県コード番号「01:北海道」から「24:三重県」の範囲のガイドブックの特徴を明らかにするととともに観光入込客数との関連について報告を行う。
2. 研究方法
本研究で用いた旅行ガイドブックに関するデータは株式会社出版ニュース社発行の『出版年鑑 2013』を用いた。これには2012(平成24)年に刊行された新刊書籍が収録されている。観光客数については国土交通省観光庁「平成24年観光入込客統計」を用いた。本発表でいう観光客数は観光入込客数であり、日本人の観光目的対象者を取り上げ県内の宿泊・日帰り客数と、県外からの宿泊・日帰り客数を合わせた数値を利用した。最新のデータは平成26年4-6月期分であるが、『出版年鑑 2013』のデータと時期を合わせるために平成24年年間値データ(H26.6.30更新)を使用した。なお「16:富山県」「18:福井県」は統計データ集計中のため除外した。
3. 結果および考察  
『出版年鑑 2013』の「地理・地誌・紀行」における出版数は北海道から三重県の24都道府県で880冊であり、地方別でみると関東地方が最も出版数が多く全体の半分を占めている(図1)。これは都道府県の中で最も出版点数の多い東京都が含まれるためである。地方別でみると北海道地方は総出版数67のうち54が地方全体を扱ったものであり、他は札幌市を対象としたものがほとんどであった。東北地方は90のうち28が地方全体を扱ったものであった。関東地方の460のうち81が地方全体を扱ったものであったが、関東地方7都県のうち東京都、神奈川県、埼玉県の3都県で出版総数の7割近くを占めている。北陸地方は38のうち4が地方全体を扱ったものであり、東海・中部地方は225のうち51が地方全体を扱ったものであった。
上記の出版数から地方別ガイドブック類型化の試案として以下のような型が考えられる。北海道地方は観光拠点が点在することによる広域な範囲をカバーしたガイドブックの必要な「広域型」、東北地方と東海・中部地方は仙台市や名古屋市などの都市を中心とした「都市型」、関東地方と北陸地方は「分散型」とみることができる。
次に都道府県別の旅行ガイドブック出版数と観光客数の関連をみてみると図2のようになり、都道府県の旅行ガイドブック出版数と観光客数には比例の関係がみられることがわかった。今後は三重県以西のデータを整理するとともに、旅行ガイドブックと観光客数についてさらに分析を行ない、地誌的な視点を取り入れた一般向けガイドブックの作成につなげていきたい。

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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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