日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 906
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発表要旨
「漁場」としての熱帯の海
-東ニカラグア、ミスキート族のアオウミガメ漁撈より-
*高木 仁
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抄録

1.はじめに
本研究は、熱帯の海を対象にした自然認識に関する研究である。
近年、東南アジア・オセアニアを対象とした地理学研究のなかで、極めて詳細な漁場としての熱帯の海に関する研究が報告されている(松本 1997,1999、田和 1999)。ただし、カリブ海を事例に、漁場としての熱帯の海を研究した著作は少ない。
研究の対象は、カリブ海西端、東ニカラグアにて暮らすミスキート族(又はミスキート)のアオウミガメ漁撈である。 これまでミスキートによるアオウミガメ漁撈・漁場に関する先行研究は、アメリカ人地理学者のベルナルド・ニーチマン氏による文化生態学的地な視点で書かれた詳細な地誌・認知地図に関する研究がある(Nietschmann 1973)。しかしながら、彼らの自然認識に関しては不明な点が多い。
本発表の目的は、長期間(約15ヵ月)にわたる現地調査をもとに①海の色、②海底(ウミガメが眠る岩)の形、③位置と方角を研究した成果を報告することである。

2.研究結果

1)海の色:現代のアオウミガメ漁撈において、的確にアオウミガメが「眠る岩」に網を仕掛けることが重要視されていた。また、そのありかを探り当てるための鍵となるのは、海水面の色であった
2)海底(ウミガメが眠る岩)の形 :色の条件が整ったとき、海底にかすかに見える寝床の形は大小、長短さまざまで、そうした特徴が名称に反映されていた。
3)位置と方角:寝床の位置は、村人たちが心臓とたとえる場所から四方八方の方位線上に伸び、ある寝床から再び方位を決め、次の寝床へとつながる。この心臓を中心として寝床の集まりは円形となり、海の一部を一つの閉じた密集地として捉えていた。 
 
3.考察
熱帯の海の自然資源利用に関して、本研究からは海の色や漁撈対象となるアオウミガメの寝床となる海底の形と位置・方角といった要素の重要性が示唆される。

参考:松本博之(1997)潮時の風景、地理学報(大阪教育大)32号、24-59頁。松本博之(1999)風と身体-トレス海峡諸島の「ひと」と「自然」、地理学報(大阪教育大)34号、35-77頁。田和正孝(1997)『漁場利用の生態:文化地理学的考察』九州大学出版会。Nietschmann, Bernard. (1973) Between Land and Water, Subsistence Ecology of Miskito Indians, Eastern Nicaragua. Seminar Press.

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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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