抄録
21世紀に入ってから日本列島では地震や津波、火山噴火、豪雨などの自然災害が相次ぎ、ジオパーク活動においても防災教育に寄与すべきだという声が高い。これはこれで重要な課題だが、私は、ジオパーク活動はむしろ自然史教育にこそ貢献すべきだと考えている。防災教育はすでに小学校の社会科を始め、高校の地理や地学でも取り上げられており、現在の日本人に必要なのは自然史に関する教育だと考えるからである。 現在、日本の学校教育では、地球温暖化とそれに伴う諸問題が繰り返し教えこまれており、子供も大人も地球環境に関する危機意識は異常に高い。しかしその一方で、身近な自然の成り立ちや自然景観、地球環境の歴史、氷河時代とその影響などといった事柄は、教育課程にはほとんど出てこないし、生物の分布や生態についての教育も貧弱である。このため、自分たちが地球という素晴らしい星に生きていることや、身近な場所にある素晴らしい自然景観や地形の成因、あるいは動植物の分布などについてはほとんど知識がないのが実情である。地球は病気だという話ばかり聞かされ、地球や自然の素晴らしさを教えられなければ、生きる力も出てこないというものだろう。 私は学校教育ではまず、地球や美しい景観、無数の生物が織りなす生態系など、自然の素晴らしさを教えるべきだと考えるが、現状ではそうなる可能性はきわめて低い。しかしジオパーク活動はまず地域の自然の素晴らしさの発見から始まり、ジオをベースにして植生や人間の生業、文化などの把握にまで広がる可能性を秘めていて、その影響は実に広範なものである。その意味でジオパーク活動に対する期待はきわめて高い。ジオパーク活動の本来の目的は、大人の教養として、地形・地質や景観、生物の分布などを通じて、地球史の一端を楽しむことにある。ジオパーク活動が防災教育に特化するのではなく、広い意味で教養のための自然史教育につながること期待したい。