日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 206
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発表要旨
浜松市沿岸部における津波避難施設の圏域分析
避難に影響する環境条件に注目して
*佐野 浩彬
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抄録
報告の背景と目的 
2011(平成23)年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は,死者15,889人,行方不明者2,598人の被害をもたらした大規模災害となった.なかでも死者数の約9割を占めている津波被害は,この震災における被害の特徴を顕著に示しており,津波避難の重要性を指摘している.津波避難における第1条件は,津波の到達前に,津波避難施設(以下,避難施設)へと到達できるかという時間的制約である.そして,第2条件は,避難者が街路ネットワーク上を移動しなければならない空間的制約である.さらに,その街路ネットワーク自体には,傾斜や災害時の通行不能地点などといったさまざまな環境条件を含まれている.こうした条件を考慮したうえで,避難施設への到達可能性を明らかにするためには,津波が浸水する前に施設へと到達することのできる空間的領域(避難圏域)を把握する必要がある.
そこで,本報告は,避難施設の避難圏域分析を通じて,津波避難時における空間的制約と時間的制約を検討した場合の地域住民による避難の可能性を明らかにする.とくに,本報告ではGISによるネットワーク解析を利用して,道路傾斜による歩行速度の減退や,避難時の通行障害となる地点を環境条件として設定した場合における避難の可能性を分析した.避難施設への到達可能性を評価する視点では,①街路ネットワークのみの場合,②傾斜による歩行速度変化の条件を負荷した場合,③河川・鉄道などによる通過制限などの障害条件を負荷した場合,④傾斜条件と通行障害条件の両方を負荷した場合の4パターンから比較する.分析では,それぞれの避難圏域内に属する想定避難可能人口と避難圏域の面積を算出して,その数値を比較するという作業を行った.
対象地域における被害想定
浜松市における南海トラフ巨大地震の被害想定は,静岡県が2013(平成25)年6月に公表した静岡県第4次地震被害想定(第4次想定)のレベル2の地震・津波にもとづいている.第4次想定では,津波高は西区で最大14m,第一波の50cm程度の津波であれば,沿岸部に4~5分で到達すると考えられているが,内陸への流入は発生から22分後だとされている.新川より南側がほぼ全面的に浸水すると想定されており,とくに浸水深2m以上の浸水が想定される場所は海岸線から約1kmの国道1号線より南側に集中している.津波による死者数は,全体で約16,610人と想定されており,浜松市西区での死者数全体の7割を占めている.西区では約10,000人が津波による死者数に相当するとされている. 
津波避難施設の圏域分析と避難可能性 
避難施設の圏域分析結果と環境条件による影響度について検討する.なお,想定津波浸水域内の人口と面積は,本報告における空間統計で算出された数値であり,行政が試算している想定数とは異なることに注意されたい.まず,想定津波浸水域(~0.3m)内には44,223人が居住しているが,直線移動が可能な場合を想定した場合では,31,386人が想定避難人口となる.行政が試算している南海トラフ巨大地震の浜松市西区における津波の死者数は,約10,000人であり,行政ではバッファによる試算が行われていると推測される.これに対して,①街路ネットワークのみを考慮した場合では20,480人,②傾斜条件を考慮した場合の試算では18,896人,③障害条件を考慮した場合では18,769人,そして,④傾斜条件と障害条件の両方を考慮した場合では17,206人という結果が算出された(表).
そして,各津波避難施設の避難圏域から,想定される避難人口数を算出し,各津波避難施設の収容可能人数と比較して,津波避難の可能性も検討した.結果として,④傾斜と障害という環境条件を考慮した場合の避難圏域から,想定避難人口数と収容可能人数の差分を比較すると,対象52施設のうち,半数にあたる26施設で,そこに避難してくる避難者すべてを抱えきることができないことが明らかとなった.差分の特徴を建物用途別にみると,集合住宅には収容可能人数が少ない傾向が見て取れ,集合住宅の避難者収容能力が低いことが指摘される.一方で,小学校や中学校といった公共施設は収容可能人数も大きく,最大で4,000人程度の避難者がそこに押し寄せても,すべての避難者を抱えることが可能となっている.ただし,結果として,そこに避難してくる避難者すべてを抱えることのできる津波避難施設が,52施設中,半数であったことは問題であり,津波避難施設の収容可能人数の拡充か,津波避難施設の増設が必要であることが指摘された.
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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