抄録
目的 : 1)宅地造成地の「前地形の簡易な読み方(現在地形図と造成前空中写真を重ねて立体視する手法)」(阿子島2011,月刊地理56-12)の精度の検証すること、 2)「国土調査土地履歴調査の仕様・説明の再検討」 のため例外的事象を認識し「説明上の留意事項」として整理することである。 これらの目的で福島県・宮城県の2011.3.11地震による造成地の被害例を検証してきた(東北地理学会2011~14に第1報~第5報)。
背景: 造成地の地震災害は、1978年宮城県沖地震の際に仙台市街周辺の丘陵地で顕著な被害が発現して注目されるようになった。復建技術コンサルタント(2008)は仙台地区の盛り土厚さ分布図(1:25,000~1:5,000)を公開した。 国土調査土地分類(土地履歴調査)は2010年に試作図「1:25,000仙台地区」を公表したが、中縮尺図という制約のなかで造成前の谷中心線を図示するなどが試みられてきた。
1978年宮城県沖地震から造成地の危険性が常識化していた一方、2011年地震までの間に災害記憶が風化していた側面もある。仙台市では丘陵地地盤は低地に比べて揺れの加速度が小さいという防災図(丘陵地内は2区分程度。切り盛りは考慮外)も公開されていた。
2011年地震で生じた地盤変状の箇所と様式は1978年宮城県沖地震の際のそれらが再現されたことが確かめられた。 仙台地区の丘陵地の地震後の危険宅造地は(2014.5現在)約4,500を超す。仙台市では2014.5に盛り土厚さ分布図(1:25,000および1:10,000)が公表された。
切り盛り地盤の判定手法: 盛り土厚さ分布図の作成方法として、新旧の地形図からDEMを作成して両者の差分を図示する方法は前準備として地形図や空中写真からDEMを作成するなど多くの経費を必要とする。最近改良を重ねてきた地理院地図(WEB)は、基本的に1:25,000地形図を基図として、土地条件図や治水地形分類図などを任意の濃度で重ね合わせて閲覧できるようになり、それらには造成地(盛り土は厚さ2m以上)などが記載されている。さらに、国土調査土地分類(土地履歴図)成果も地理院地図に統合して重ね合せ表示する計画がある。
造成前地形を読む簡易な手法: 「現在地形図と造成前空中写真を重ねて立体視する手法」は、空中写真にあわせて地形図のほうを歪めるという問題があるものの、造成前の地形を認識するという目的は安価・容易に達せられよう。
2011年地震による丘陵・台地の造成地地盤の変状と造成前地形の検討:主な例を述べる。(1)以外は現地で被災箇所分布図を作成した。
(1)福島第1原発敷地内の台地開析谷を埋める地盤の地すべり: 移動土塊が谷底の送電塔を倒壊させ5・6号機の外部電源喪失をもたらした。地すべり箇所は撮影日時を異にするGoogleEarth画像の立体視で読むことができ、現地形図に転写したのち、古い空中写真や旧版地形図と重ねた。谷底面の水路の付け替えの可能性も読める。
(2)宮城県山元町太陽団地の丘陵地谷埋め造成地: 2つの尾根とその間の長い谷を埋めた台形の造成地で、埋設谷沿いと台地周辺ですべりと地割れが発生した。 空中写真立体視、旧1:25,000地形図、1:5,000計画図から原地形を復元し、発災箇所分布図重ねた。
(3)白河市栄地区の丘陵地谷底の造成地: 厚さ2m程度の盛り土であったが、地表下の段にまたがるアパート1棟は不等沈下で損壊したことがわかった。
(4) 白河市三本松地区の丘陵急斜面の雛壇造成地: 同心円状の等高線の斜面であり、原形斜面が谷型か尾根型かで地盤損壊に差が生じた。
残された課題: 亜炭廃坑の陥没(福島県須賀川市2例、宮城県内では震災により100件超)は予測が難しい。古い造成地(白河市小峰城の本丸地塁は丘陵の切り盛り台地で、深さ約20mの谷口をふさぐ石垣が崩壊した: 白河市埋蔵文化財課,2014; 台地面上の須賀川市市街の震災と中世城館の埋没周濠、阿子島2012本会)は想定外であった。
科研費(基盤(C)課題番号24501285)を使用しました。