日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1305
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発表要旨
「格差の空間社会学」を構想する
*橋本 健二
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抄録
日本では1980年代後半から経済的格差の拡大が始まったが、これが注目され始めるのは90年代末からであり、本格的な研究が始まるのは2000年代に入ってからである。その主要な論点は、第1に経済的格差の趨勢やその内部構成を明らかにすること、第2に経済的・社会的な機会の格差の構造を明らかにすることだったといってよい。社会学において格差研究の中心を担う階級・階層論は、これに対応して、第1に階級・階層間格差の構造と趨勢、第2に階級・階層間移動の機会の構造と趨勢というという両面から、研究を蓄積してきた。
この2つの論点は、地域間格差・地域間移動と密接な関係にある。諸階級・諸階層は空間的に偏在している。したがって地域間格差は、各地域の階級・階層構成の違いとして、あるいは階級・階層構成を異にする地域類型間の格差として把握することができる。そして階級・階層間移動は、しばしば地域間移動をともない、異なる地域類型間での移動としてあらわれる。これまで階級・階層研究は、こうした問題を取り上げることが少なかった。しかし多くの研究が格差と空間の密接な関係を解明しつつある今日、階級・階層研究は、都市社会学の社会地区分析や、経済地理学の成果と方法を取り入れながら、新しい研究領域を切り拓く必要に迫られているといっていい。それが対象とするのは、第1に格差の空間構造とその変動、第2に社会移動と地域間格差・地域間移動の関係である。格差拡大はこの両面から、各地域類型の量的変化および性格の変化と、人々の階級・階層間および地域類型間の移動の結果として把握されるはずである。研究の方法としては、階級・階層論が主要な方法としてきた質問紙調査の手法と、社会地区分析の地域を単位とする統計分析を統合する必要がある。こうして確立されるべき新しい研究領域は「格差の空間社会学」と呼ぶことができるだろう。
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