日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 317
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発表要旨
茨城県中部・友部丘陵で見いだされた更新統友部層をおおう古期ローム層と風成砂層
*大井 信三西連地 信男須藤 忠恭安藤 寿男
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抄録
1.はじめに
茨城県中部の友部丘陵は友部層と呼ばれる海成の砂層が分布する(坂本,1979).友部層の年代については, 宮崎ほか(1996)は柿岡盆地の友部層に含まれる貝化石群が第四系地蔵堂層下部の泉谷化石帯の化石群と類似していることから,下総層群地蔵堂層下部に対比されるとした.また鈴木・町田(2000)は友部層とほぼ同じ年代と思われる瓜連丘陵の所貫礫層上位の粟河軽石層を大田原火砕流堆積物に対比し,その年代観に基づきMIS9の時期のものとした.一方,大井ほか(2006)は,北関東道の工事で現れた露頭から,友部層は上総層群の堆積年代まで遡る可能性を示唆した.しかし友部層の年代の確証は得られていないのが現状である.
ところが最近友部丘陵において,友部層とその上位の風成と思われる砂層に挟まれた古期ローム層が見いだされた.挟在するテフラから,風成砂層は地蔵堂層堆積後の海岸砂丘の堆積物であることが示唆された.したがって,下総層群をもたらした海は友部丘陵には侵入していなかった可能性が高いと推定される.
2.水戸市武具池の露頭記載
調査露頭は水戸市北西部武具池の標高100mの丘陵にある.本露頭で確認できるテフラを下からT1~T8と名付けた.露頭下部は平行葉理が発達する中粒砂層からなる友部層で,海浜相とみなされる.それをおおって厚さ3mの下部ローム層がある.下部ローム層の中部には角閃石を含むT1, T2があり,下部ローム層の上部には黒雲母密集帯をなすT3がある.この下部ローム層をおおって厚さ5mの淘汰の良い中粒砂層があり,砂層直下の下部ローム層は赤色化している.
この砂層をおおう,中部ローム層には5枚のテフラが挟在している.T5は角閃石を多く含む黄色軽石で,縦クラックの発達した埋没古土壌とみなされる部分に挟まれる.T6は厚さ40cmの黄色軽石で角閃石を多く含む.T7はレンズ状に分布する白色軽石で,カミングトン閃石を含む特徴がある.T7とT8の間のローム層にも縦クラックが発達する.上部ローム層はAg-KPを含む厚さ3mのローム層で,上部ローム層の下半は欠落していると思われる.
3.テフラの対比
T3は黒雲母を多く含むテフラだが,火山ガラスは風化のために残っていない.そこで風化に強いチタン磁鉄鉱の主成分分析を行い,対比候補の黒雲母を多く含む火砕物である大町APm,上宝火砕流堆積物と比較した.その結果1/3の主成分がFeOが81-82%,TiO2が8.6-10%,Al2O3が1.6%を示しAPmの主成分とほぼ一致した.さらにT3は下部が細粒で,上部は軽石からなる2つのユニットがある.このような特徴は,各地でHBP, J4,TE-5などと呼ばれているA1Pmの特徴と良く類似し,対比される可能性が高い.
T6は角閃石の屈折率がn2=1.670-1.679で,角閃石の他に岩片多く含む特徴がある.上位のT7はカミングトン閃石を多く含む特徴なテフラである.T6とT7の組合せは,涸沼川中流の上泉層に見られるカミングトン閃石を含む大古山軽石(OgP; 横山ほか,2002)と,その下位で上泉層の基底礫層直上の泥炭層に挟在し,角閃石と岩片を含む四阿蓑原軽石(Az-MiP; 大石,2009)の組合せと類似し,両者は対比される可能性が高い.
4.風成砂層の生成時期と友部層
下部ローム層をおおう厚さ5mの淘汰の良い砂層について,本露頭から南へ500m離れた笠間市和尚塚にあった同層準の砂層を,現在の阿字ヶ浦海岸の砂丘砂と比較し,砂の粒度組成の特徴から風成砂であることが判明した.それは本露頭より東側の東茨城台地側に,砂を供給する海岸があったことを示している.風成砂層の生成時期は,1) 風成砂層の直下のローム層が赤色化しており,温暖な間氷期に土壌化したものと思われること,2) 風成砂層の直下に挟在するT3は地蔵堂層の海進期のテフラJ4に対比されることから,地蔵堂層の堆積直後であった可能性が高い.
友部層はこの風成砂層下位の下部ローム層におおわれることから,地蔵堂層形成時のMIS11の海は友部丘陵には侵入しなかったことになる.したがって友部層はMIS11より古い時代の海成層であると言える.
引用文献
宮崎ほか 1996.真壁地域の地質.地質調査所.
坂本・宇野沢 1979,地質調査所月報 30: 269-283.
鈴木・町田 2000,日本の地形4-関東.伊豆小笠原- 22-36.
大井ほか 2006,日本第四紀学会講演要旨集 36: 168-169.
大石 2009,地学雑誌 118: 1237-1246.
横山ほか 2002,堆積学研究 55: 17-28.
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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