日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 702
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発表要旨
企業間取引ネットワーク上のコミュニティとその地理的視点
*桜町 律藤原 直哉藤嶋 翔太秋山 祐樹柴崎 亮介
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抄録
企業間の取引は経済活動の大きな割合を占めており、国や地域の経済構造を理解する上で重要である。それゆえ企業間取引の研究は様々な視点から盛んに行なわれているが、企業をノード、取引をリンクとして企業間取引をネットワークと考えて解析することが可能である。企業間ネットワークは一般に大規模であるが、取引が活発な地域や業種のまとまりの構造が、ネットワークのつながり、すなわち取引情報のみから抽出可能であると考えられる。このような構造を「コミュニティ」と呼び、経済構造を把握するうえで非常に有用であると考えられる。本研究の目的は、日本の企業間取引の実データからコミュニティ構造を抽出するとともに、コミュニティを形成する企業の空間分布などのコミュニティの地理的な特徴を明らかにすることである。抽出されたコミュニティ構造をGISによって地図上に射影し、企業間の取引関係と地理的な近接性の関係を解析する点が本研究の特徴である。地理的に近接する企業間の取引が活発であるため直観的にはコミュニティ構造は地理的に局在していると考えられるが、企業間取引ネットワークは空間的な構造を陽には含んでいないので、これは必ずしも自明ではない。コミュニティ抽出の手法としては、近年ネットワーク研究において注目を集めているMap equationと呼ばれる手法を用いる。 この手法はネットワーク上でのランダムウォークを記述する符号長を最小化するようにコミュニティ構造を決定する手法である。資金の流れはランダムウォークに類似した性質を有しているので、本手法は企業間ネットワークを特徴づける上で適切であると考えられる。さらに、Map equationにもとづいて階層的なネットワークを抽出する手法も提案されており、企業間取引に見られる階層構造を分析可能である点も本手法を用いる利点のひとつである。本研究では、株式会社帝国データバンクの提供による2008年から2013年における日本国内の約160万社間における約590万件の企業間取引データを用いてネットワークを構成し、解析を行った。このデータは取引活動に加えて取引金額の推定値の情報も含まれており、詳細な解析が可能である。本研究の主要な結果は以下の通りである。まず、同一のコミュニティに属し、緊密な取引関係にあると考えられる企業群が、必ずしも地理的に近い場所に所在しているとは限らないことを明らかにした。すなわち、コミュニティ構造は地理的に必ずしも局在していない。また、コミュニティ構造が一般的に階層構造を持つことが分かった。特に、企業間取引で重要な役割を果たす大企業の取引先は地理的に広く分散しており、そのような地理的に広範囲に及ぶ取引構造の存在がコミュニティの非局所性に影響していると考えられる。最後に、いくつかのコミュニティ構造は空間的に重なっている。すなわち、コミュニティは取引の活発さに依存して決定されるので、地理的に近接する企業が異なるコミュニティに属する可能性がある。この結果は、企業間の関係性において、地理的な近接性のみが常に重要な役割を果たすとは限らないことを示唆している。本研究では、企業間取引活動のみを考慮して解析を行ったが、実際には消費者の行動も経済活動に重要な役割を果たしている。例えば都市圏の定義は都市計画において重要な問題であるが、企業活動の他に人の行動パターンも関係している。そのような問題に対しても、企業間取引のネットワークに、パーソントリップデータなどのGISデータを活用して人の移動情報を組み合わせた複合的なネットワークを構成してコミュニティ抽出を行なうことで、解析を行うことができると考えられる。このような本研究の応用は今後の課題である。
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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