日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 715
会議情報

発表要旨
地理学を生かしたランドスケイプデザイン #4
東日本大震災津波被災地小泉の再生試案 第二報
*廣瀬 俊介
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

筆者は、地理学を生かしたランドスケイプデザインの応用を志向する中で、東日本大震災被災地の一つ、気仙沼市本吉町小泉地区において、住民・研究者・技術者有志と地区再生のあり方を検討している。2013年秋季学術大会に続き、その第2回報告を行う。
宮城県は、同地区へ長さ800m、底部の幅90m、高さ海抜14.7mの防潮堤を建設する計画を策定し、2014年11月に落札決定も済まされている。しかし、「原形復旧・効用回復」を目的とする災害復旧事業は環境影響評価法と宮城県環境影響評価条例の適用除外となり、同県は住民の意見を聴取し適切に合意を形成する段階を踏むことなく防潮堤建設計画を進めた。同地区住民はこれに対して自主勉強会開催を続け、2014年8月には国土交通省海岸室へ防潮堤建設計画の見直しを求める陳情書を提出した。
筆者ら研究者・技術者は小泉地区住民に協力を求められ、持続する地区の再生を目的に2013年5月から災害復旧代替案を共同検討してきた。遠浅の砂浜海岸と河口から約4.5km上流まで3度未満の緩勾配が続く地形や、アサリやカキの類が戻りサケやアユやウナギの遡上のある水域の生物生産に照らし、防潮堤は新設される三陸沿岸道路盛土部と兼用とすることを、提案の骨子とした。これは海岸と河口、津波痕跡湿地等を、平時は人間の生存条件を成り立たせる生物生産の場とし、非常時には津波や河川洪水を減勢させる緩衝帯「前浜」として生かす考えに基づく。
生態系サービスを生産する自然環境の保全は、人間の経済活動ひいては持続社会の基礎条件となる。その理解に基づく社会資本整備の普及を促すことを、急務と考えている。

著者関連情報
© 2015 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top