日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 122
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発表要旨
飯能市におけるエコツーリズム推進の実態と地域への影響
*中岡 裕章
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抄録

エコツーリズムは途上国の自然保護を目的としてとしてはじまり、現在では先進諸国でも広く実践されている。日本でも、1990年ごろから全国の地方自治体で参画が進んでおり、第一次産業の衰退や少子高齢化が進行する地域では、エコツーリズムによる地域活性化が期待されている。
エコツーリズムは、自然地域の環境を保全しつつ、それを持続的に利用し、その利益を環境の保全と地域住民に還元することを目指すツーリズムとして広く認知されてきた。日本におけるエコツーリズム開発においても、はじめは小笠原諸島や知床などの原生的な自然が多く残存する地域の自然環境の保護を目的として行われてきた。しかし、日本の環境の多くは人間との関りのなかで保全されてきた二次的自然や文化的資源を保有するものである。そのため、日本の環境に適応したエコツーリズムのあり方が模索されている。
本研究では、エコツーリズムを推進する地域の具体的な取り組みについてその実態を把握した上で、地域住民の参画意識や関り方の実態を整理しながらエコツーリズム推進による地域への影響について考察する。
本研究対象地域として、埼玉県飯能市を選定した。飯能市は、面積の約76%を森林が占め、林業を中心としてきた歴史がある。近年では、そうした第一次産業の衰退に加え、高齢化や山間部における人口減少が問題視されており、早急な地域振興策が求められる地域である。こうした背景のなか、二次的自然や文化的資源を有する地域としてエコツーリズムを推進してきた。また、エコツーリズム推進モデル事業への参画や、エコツーリズム推進法に基づく全体構想が初めて認定された地域であり、二次的自然や文化的資源を有する地域におけるエコツーリズムと地域住民の関わりについて考察する適地である。
調査は、2014年5月から2015年1月にかけて、飯能市観光・エコツーリズム推進課、飯能市エコツーリズム推進協議会、エコツアー実施者に直接面接調査を実施した。分析にあたり、2004年度から2013年度の飯能市エコツーリズム推進事業報告書を主として使用した。
飯能市では、林業の衰退とともに利用価値を失った森林などの二次的自然や、古くからの生活習慣や建造物といった文化的資源を活用したエコツーリズムを推進してきた。また、エコツアーはツアー実施者や実施団体が主体となって行われ、エコツーリズムの推進以降、エコツアー数・参加者数ともに増加傾向にある。こうしたエコツアーの実施者には高齢者が多く、飯能市内やその周辺地域に居住している。エコツアーを実施する目的は、生きがいやエコツアーへの興味、知識や経験の活用が主であり、換言すれば、経済的な利益を目的としたエコツアーの実施はあまり行われていないといえる。
一方、参加者は女性の割合が高く、60代以上が約40%となっている。また、埼玉県内の参加者が70%を超えており、飯能市内の参加だけで40%近くを占めている。すなわち、飯能市のエコツアーは、実施者・参加者ともに近隣の地域に居住する人々を中心として行われているといえる。

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