抄録
1. はじめに
アジアやアフリカの農村地域では、農家が自給用作物を栽培する際、複数の作物を同一の畑で栽培する混作や間作、単作など、多様な作付様式がみられる。作物種の組み合わせは農家ごとに異なる場合が多く、畑地空間の環境認識や生計戦略など、作付様式には各農家の主体的な営為が反映されている。しかし、調査者がインタビューなどで把握する農家の認識と実践との間にはズレがある場合が多く、作付様式に反映された農家の意図を調査者が把握するためには、農家の認識と実践の両面に注目した多面的なアプローチが必要となる。本稿では、アフリカのナミビア共和国北部地域を対象とし、農家の作付様式から彼らの創意工夫を理解するための調査手法について、メンタルマップによる農家の認識把握や自律型飛行体(UAV)による航空写真の活用というアプローチから検討した。
2. 方法
2012年11月~2014年9月にかけて、ナミビア北中部に位置するO村において現地調査を実施した。予備調査により、32世帯を対象に、村の農業体系について把握した。その情報を基に8世帯を抽出し、作付様式に関する調査を実施した。調査では、その年に栽培した作物種を聞き、その後、画用紙に畑のスケッチを描いてもらった。その後、そのスケッチをもとに各作物種の栽培場所の選択理由、作物種の組み合わせの理由をインタビューし、彼らの認識を把握した。インタビュー調査が終わった後に畑へ移動し、実際の耕作範囲をGPS受信機を用いて記録した。また、スケッチに描かれた内容を基に、実際の作付様式について説明をしてもらった。最後に、UAVによって畑の航空写真を撮影し、実際の作付様式について把握した。
3. 結果と考察
(1) 作付様式に対する農家の認識:調査世帯が作付を行っている作物種は12種であった。メンタルマップおよびインタビューにより、これらの作物種には単作としてのみ栽培される作物と混作によって栽培される作物があることが明らかとなり、混作の組み合わせ方は世帯によって異なる傾向がみられた。例えば、マメ科のササゲはトウジンビエと混作する世帯とモロコシと混作する場合がみられ、組み合わせを実施する背景には様々な意図がみられた。
(2) 認識と実践のずれ:メンタルマップによって把握した農家の認識と実際の作付様式の間には、様々な要因によるずれがみられた。インタビューによる調査では、一般的な傾向として、作物種間の混作様式が説明される傾向がみられるが、実際に農家が行っている作付様式と比較すると、農家が小規模に試みに実施している作付方法などが浮き彫りとなり、農家の主体的な取り組みが抽出された。
(3) 作付様式を採用する多様な意図:年間降水量が少なく、降雨の経年変動が大きい本地域では、混作は不確実な降雨に対するリスク軽減の意味合いがみられた。例えば、乾燥に強いトウジンビエと湿害に強いモロコシの種子を混ぜ、同じ場所に混播する方法を行っている農家では、洪水や干ばつなどの気象災害発生時でも、どちらか一方の作物が生存することを意図して実施すると説明した。また、砂質土壌に覆われる本地域では土壌の肥沃度も微地形によって異なると説明され、各世帯の畑の環境条件に適応した作付方法として、多様な混作が実践されているとみられる。