抄録
Ⅰ はじめに こどもの世界像の形成は,主として直接経験と間接経験によって獲得され,後者はメディアなどで得られる情報のほかに学校教育の視覚教材などがある.そのうち地理写真は地域理解に有効で(伊藤
1980,吉田 1993,森 2004),授業において最も多用され授業の構想にも寄与が大きいあることが確認されている(古岡 2003).また,地理写真を掲載し全国において活用されるものに地図帳があり,吉田(1990)は地域理解の地図帳の有効性を示した.以上のように従前の研究では地理写真やそれが掲載された地図帳の活用について議論されてきた.一方,地図帳の内容は学習指導要領の改訂や社会の変化などにより変更され,それに伴って子供の世界像の認識や認識に関わる教育内容の変化が想定される.地図帳の地理写真内容の年代的変化の把握は,現在の地理教育を構築するうえでの基礎的資料として重要である.本研究では,小学校地図帳の世界の地理写真に関する年代的変化を捉える.児童は社会を捉える過程で,地形や気候などの自然環境を基本条件としており(小林
1985),世界の地理写真のうち特に自然環境に関する内容に着目する.
Ⅱ 調査および方法 小学校地図帳は,約10年おきに改訂される学習指導要領の改定や,社会変化に応じて内容が変更される.また,改訂される年代によって地図帳の冊数や地図帳一冊当たりの写真掲載数も異なる.地理写真に関する年代的変化を捉えるため,写真総枚数が十分に得られよう年代を区分した.ここで,55年から58年にかけては発行から告示へ,77年から89年にかけては生活科の新設へと指導要領の意味合いや内容が異なる.これらのことを念頭にⅠ~Ⅴに年代を設定した.対象とした地図帳は年次を合わせるため初訂版を主としたが,入手の都合上改訂版,指導書の地図帳頁を対象とする年も含む.指導書であっても地図帳の内容が確認でき,発行年はいずれも指導要領発行年以降であり年代区分に差支えないと判断した.
Ⅲ 結果 写真掲載枚数の上位5か国は,アメリカ(34),オーストラリア(15),ソ連(ロシア)(12)次いで中国(10),ブラジル(9)で,いずれの国も面積は大きい.写真内容に着目すると,「(世界の)気候と生活」といった自然/社会環境が包括される写真枚数の割合は,経年的に減少傾向を示す.一方,写真からよみとれる内容が自然環境および人文社会環境に限定される写真は増大している.自然環境を含む写真の気候帯別の写真枚数や割合は,熱帯はいずれの年代も割合が最大で,冷帯や寒帯は減少している.気候帯別の写真割合の最大・最小値の比は近年小さいが,気候帯の面積あたりでは狭い気候帯で枚数が多い.自然事象の写真が掲載される項目の割合は,「気候と生活」で大きく減少し,世界もしくは地域ごとの項目で枚数が増大している.気候帯別にみた場合,写真が掲載される頻度の差は小さく,自然/人文環境は切り分けられた写真が増大している.したがって,自然/人文環境の両者の理解に関する地理写真の扱われ方の留意点が年代的に変化する必要性を本研究は提示していると考えられる.