日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 421
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発表要旨
旧西ベルリンインナーシティ地区におけるジェントリフィケーションの諸相
アーティストと創造産業の違いに着目して
*池田 真利子
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抄録

分断都市としての歴史を経験した都市ベルリンは,東西で異なる変化を遂げてきた.とくに政治転換期以降,旧東ベルリンインナーシティ地区では,文化的占拠やテンポラリーユースなど,合法・非合法に関わらず文化・創造的空間利用が顕在化し,ジェントリフィケーションを含む特定街区の改善を促してきたが,こうした改善の過程に関しては都市の在り方と併せ議論が成されてきた(池田 2014).独語圏既存研究においては,特に東ベルリンインナーシティ地区の改善過程が注目されてきたが,「旧東独インナーシティ地区が旧西独インナーシティ地区よりも経済的に豊かとなった」という逆説的状況に代表されるように,東西統一から四半世紀が経過した現在,都市改編は旧西独地域へと及びつつある. したがって,本発表は旧西ベルリンインナーシティ地区のロイター地区を事例に,街区の肯定的イメージが創り出される具体的な過程に注目することにより,ジェントリフィケーションにおいてアーティストが担う役割を明らかにする.研究方法は以下の通りである.まず,2013年および2014年にロイター地区全域の詳細な土地利用を調査し,続いて地区改善事業に取り組む行政および関連事業主体への聞取り調査を行い,地区の変容過程に関する聞き取り調査を行った.さらに,ロイター地区のアーティスト,小売店事業主(商業,サービス業)を対象に経営形態や開設年,立地選択理由等に関する聞取り調査を行った.ノイケルン地区は,旧西ベルリンインナーシティ地区であり,東西統一以降はトルコ系移民をはじめとする外国籍住民が近隣地区より多く流入し,トルコやポーランド,セルビアなどの移民の背景をもつ人々Migrationshintergrundが集住している点,失業率も15.4%と市全体の失業率11.2%に比較して極めて高い点などから,典型的な「問題街区」である.本研究の対象地域はノイケルン地区の最北端に位置するロイター地区である.同地区では,「Cultural Network Neukölln」(1995年~)や「48 hours Neukölln」(1999年~)など,特に1990年半ば以降アーティストによる自発的活動が活発化していった.2003年には連邦政府およびEU地域開発基金(ERDF)を基に地区改善事業が開始され,街区マネージメントが開始された.さらに2005年には民間団体であるテンポラリーユースエージェンシーが同地区に多い空き店舗を活用し,アーティストや都市企業者への期間限定的借用を開始した.ロイター地区は2008年以降,広義における文化施設(アトリエ,カフェ・バー,ブティックなど個人経営の小売店・サービス業)の増加が著しい.旧東西境界線(ベルリンの壁)に近接する地区は,東西分断時には国家の縁辺部として衰退していたが,統一後に地理的中心性を回復した.こうした衰退地域では,交通利便性のほかに,未修復・未改善の建造物に起因する安価な地代などから,東西統一後の1990年代よりアーティストや都市企業家が積極的に移住し,地区のイメージを高めていった. 本研究で明らかとなった知見は以下の通りである.第一に,商業施設の分布に着目した土地利用からは,既存研究で指摘されてきたエスニックマイノリティなどの立ち退きによる置換(上方変動)というより,大通り沿いの商業施設(小売店)はエスニック関連施設,小路には小売店事業主(商業,サービス業)が集積し,より偏在的かつ多面的に変容を遂げていったことがわかる.第二に,ロイター地区の改善過程をみると,アーティストがパイオニア期である1990年代半ば以降転入しており,続いて1990年代末以降,創造産業を含む小売店事業主(商業,サービス業)が同地区へと転入した.こうしたことから,創造階級のなかでも特にアーティストは,他の商業・サービス業などの創造産業と一種異なる役割を果たしていることが,ジェントリフィケーションの時系列的変化より明らかとなった.

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