抄録
1.研究課題
近年,都市部の空き家増加に対する社会的関心が高まっている。総務省統計局による平成25年住宅・土地統計調査の速報が発表され,全国の空き家率が13.5%と過去最高になったことの衝撃は大きく,空き家問題を扱う書籍が多数出版された(たとえば牧野2014,浅見2014)。 しかし,これらは,高齢化や相続・世代交代の成否,経済的要因,制度上の問題,地域的課題,さらに高齢者の住宅保有意識の高さなどの心理的・情緒的要因が複雑にからみあって顕在化する空き家問題について,その一面をとらえているに過ぎない(久保2015,久保ほか2014)。大都市圏と地方都市,また都市中心部(都心部)と郊外住宅地(とさらに外縁地域)では,空き家発生のメカニズムが異なっており,さらに空き家は資産価値の高低などを反映して管理や利活用に関わる主体が異なるため,地域特性や空き家の維持管理に関わる地域システムを分析する必要が有る(由井ほか2014,西山2014,西山・久保2015)。 本研究では岐阜市中心部に位置する京町地区を事例として,研究蓄積の少ない地方都市中心部における空き家増加の実態を現地調査により明らかにする。具体的には,空き家増加に関係する住宅市場や制度の問題,地区の地理的特性,住民の社会経済的特性,空き家問題に対する住民の意識や地域と住民の関わり方などを総合的に分析する。なお,本研究は,岐阜大学の地(知)の拠点(COC)事業の地域志向学プロジェクトにおいて実施したものである。
2.研究対象地域と調査方法
京町地区は,JR岐阜駅から約2km北に位置し,忠節橋通りと長良橋通りに挟まれ東西に長い形状をしている。2~3代前に転入した世帯が多く,各区画が比較的狭小であることから若年世帯の転入が少なく高齢化が著しい。現地調査では,自治会の協力を得て,空き家所在地などの基礎情報を収集した。その後,空き家となった要因や現在の管理体制などについての実態調査を実施した。さらに,自治会加入の全1638世帯を対象にアンケートを配布し,空き家に対する認識や将来的な住宅の管理方針などを尋ねた。
3.研究成果の概要
京町地区では,139件の空き家が確認され, 67%は長期不在の空き家,次いで10%は一時転居中のものであった。54%は十分に管理されており,管理不全と判断されたもののうち危険な状態にあるものは7件であった。郊外住宅地の空き家実態と異なる点は,空き家期間が長いことにあり,10年以上空き家となっているものは20%を占めた。