日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 111
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発表要旨
ストリートキャニオンの構成が屋外熱環境と流れ場に与える影響に関する研究
*一ノ瀬 俊明林 瞱
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抄録
前報(2014年秋季大会)では、LDV(Laser Doppler Velocimetry)の手法を用い、風洞実験において、実際の建築表面素材や人工太陽光ランプを用いることの可能性に加え、建物表面特殊コーティング(ミクロ材料)による、流れ場等屋内外温熱環境の改善効果を明らかにした(Lin et al., 2015)。この成果を実際の街区に敷衍するため、PIV(Particle image velocimetry)の手法を用い、都市キャニオンにおける卓越風向や加熱条件の違いがもたらす流れ場への影響や、大気汚染物質・熱拡散、人体温熱快適性への影響を明らかにし、屋上緑化や特殊表面素材の適用と街区デザインとの賢い組み合わせの有効性を提示する。ここでは、ストリートキャニオンを模したアルミニウム製のスケールモデルを用い、風上に粗度ブロックをならべて流入風速の鉛直分布を調整している。PIVカメラの使用により、斜め方向から建物に接近する風が流れ場に与える影響を、鉛直分布と水平分布の両方について、より詳細に観測できる。Oke (1988) などを嚆矢とする一連の先行研究事例に対し、今回の実験で新たに明らかにされた主な内容は以下の通りである。・風速が0.5m/sの場合、加熱してもキャノピー内に渦は発生せず、浮力による上昇流が卓越する。一方1.5m/sの場合、ストリートキャニオンの幅が広がるにつれ、加熱の流れ場への影響は見えにくくなる。・深いキャニオンの場合、壁面加熱による気温上昇は大きいが、キャニオンが浅くなるにつれ、道路面加熱による気温上昇が大きくなる。また、風下に向いた面の加熱影響が最も小さい。・街路に対する風向(交角)が90度の場合、いずれの断面においても安定した渦がキャノピー中央に形成される。67.5度と45度の場合、流入部と中間部においてキャノピー中央に単一渦が形成される一方、流出部においては風下に向いた面へ近づき、45度の場合では顕著に弱くなる。22.5度の場合、流入部において2つの相互に逆向きの渦が発生し、下側の渦は風上に向いた面のコーナー部分に小さく発生する。中間部においては、一つの大きな渦のみとなり、流出部では渦が消失する。0度の場合、いずれの断面においても壁面の摩擦によるスパイラル流が見られる。・交角が0度に近づくにつれ、キャノピーを渡る風により、多くの熱が運び去られ、流れ場への熱的な影響は小さくなり、スパイラル流が現れる。・0度の場合にキャノピー内における夏季の温熱環境は最も良好な状態を示すものと考えられるが、屋根面の加熱による影響はより大きなものとなった。90度の場合、キャノピー内の流れ場は主に浮力の影響を受ける。67.5度の場合、中立の条件下では90度の場合に類似するが、加熱により変化する。交角が45度よりも小さくなる場合、流れ場は建物形状に依存するようになるが、それは表面摩擦の影響が浮力に卓越するためである。また、流入風速が0.5m/sの場合のみ、道路面加熱の影響が現れる。これらの研究成果は、アスペクト比や風向、風速の流れ場に与える影響を体系的に描き出しているほか、都市地表面の加熱による都市キャニオン内の大気汚染現象、屋内外温熱環境悪化を避けるための都市計画指針作りに寄与するものであることが確認された。本研究は、林瞱が2015年2月に名古屋大学に提出した博士論文の一部である。風洞実験でお世話になった、(独)国立環境研究所・山尾幸夫主任研究員、気象庁気象研究所・毛利英明室長ほかの皆様に謝意を表します。文献 Lin, Y., T. Ichinose, R.T. Wu, Y. Yamao, H. Mouri, R.V. Virtudazo: (2015) An Experimental Study on Exploring the Possibility of Applying Artificial Light as Radiation in Wind Tunnel. Journal of Heat Island Institute International (Accepted) Oke, T.R.: (1988) Street design and urban canopy layer climate. Energy and Buildings 11(1): 103-113 図 交角22.5度,0.5m/s,中間部における流れ場の可視化事例(加熱部位による差異)
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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