抄録
1 はじめに
日本の東北地方の三陸海岸の海は、その沖合にて南からの暖流と北からの寒流とが接する地域であるために多様な海洋資源に恵まれている。このため、古代から現在まで漁業が集落の経済基盤の一つになってきた。しかしながら、2011年3月の東日本大震災の津波によって、多くの家屋や漁船が流され、彼らの生活基盤を失ったといわれる。震災後、ほぼ4年が経過して、どのように地域の漁業は復興してきたのであろうか。
本研究は、三陸海岸の中部に位置する岩手県山田町の一漁村を調査地とする。そこでの漁業の現状とその変化を把握することを通して、小規模社会における海洋資源利用の長期的持続可能性について論議する。ここでは、調査地の多様な漁業のなかで天然昆布とアワビの採取活動に焦点を当てる。筆者は、①2014年10月18日から21日、②12月10日から15日の間、山田町での漁業に関する現地調査を行った。
2.結果と考察
1)採取活動の季節性: 採取者は、漁協のメンバーである。それ以外の人の採取は禁じられている。彼らは、4-8月はウニや天然ワカメ、9-10月は天然昆布、11-12月はアワビ、1-3月はナマコ、マツモ、イワノリ、ヒジキ、テングサなどの採取を行っている。その一方で、これらの採取とカキ、ホタテ、ワカメの養殖を組み合わせている人もみられる。
2)採取活動の実際:調査地には、三石コンブ(Laminaria
angustata Kjellman)とマコンブ(Laminaria
japonica Areschoug)という2種類の天然昆布、およびエゾアワビ(Haliotis
discus hannai)が分布している。漁協の規定によって、採取の開始時期(「口開け」)や開始時刻は決められている。また、住民は、2つの漁場で漁業権を持っており、箱メガネと数メートルの竿を採取には使用する。
3)採取活動の持続可能性:1日当たりの採取量は、個人による差が大きいのみならず、日によっても異なっている。採取量の年次変化をみると、震災直後には採取量が減少したが、その後、採取量は増加している。しかし、その変動の傾向は、昆布とアワビでは異なっている。昆布の場合は、干場が少なくなったこともあり、採取量はもとの状態にもどってはいない。本報告では、震災前後の数年間における海洋資源の持続可能性について論議する(図1参照)。