日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 605
会議情報

発表要旨
新型インフルエンザ流行の空間的伝播モデリング
茨城県における公立小中学校の閉鎖措置実施データを用いて
*永田 彰平中谷 友樹
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
1.研究の背景と目的
インフルエンザ流行を対象とした空間的伝播研究はこれまで数多く実施されてきた(Cliff et al., 1986).日本国内においても,都市階層と人の接触頻度の空間的制約からシミュレーションを行った研究(杉浦, 1975)や空間的な理論疫学モデルを用いて感染者数の時空間的な推移を分析した研究(中谷, 1994; 片岡ほか, 2012)が見られる.しかし,先行研究の多くは演繹的なモデル分析研究であり,実際の流行実績から,流行伝播の空間的パターンを抽出する研究は少ない.永田・中谷(2013,2014)は空間データ解析の手法を用いて,2009-2010年シーズンにおける茨城県の公立小中学校の閉鎖措置データを分析し,流行伝播の空間的パターンが地域内外での人の接触頻度や地域間ネットワークの地域差と関係することを示唆した.本研究では,小中学校を単位とする詳細な空間的解像度をもって,人の接触頻度に関連する地域的指標や流行地区との接続性指標を変数とした流行伝播モデルの構築を目的とする.

2.方法
流行実績を示す資料としては『インフルエンザ患者の発生に伴う学級閉鎖等の措置について』(茨城県保健福祉部予防課・茨城県感染症情報センター)を用いた.この資料には2009-2010年シーズンの新型インフルエンザ流行による閉鎖措置を実施した学校名,患者数,閉鎖期間が記録されており,閉鎖措置を初めて実施した日を各学校の流行開始日とみなした.なお,分析対象期間は2学期開始の9月1日から2学期の最終日である12月24日までとした.
本研究では各学校について,流行が発生した場合に「1」,未発生なら「0」とする流行発生判定を1日ごとに行い,流行発生状況を被説明変数とする二項ロジスティック回帰分析を実施した.説明変数には,近隣学校の流行発生状況や流行地区との流動量を指標とする流行地区との関係性指標に加え,学校や学校区に関する指標を投入した.なお,流行期間中で初めての流行発生のみを対象として予測を行うため,流行が開始した学校は次の日以降のデータから除外される.学校区に関する指標に含まれる学校区の中心性指標は,学校立地密度と,PageRankアルゴリズムに基づいて学校区間の流動量から算出した中心性の値を変数とした.情報量規準に基づいたパラメータ推定を行い,最も優れたモデルを用いた乱数シミュレーションの結果と流行実績を比較した.

3.結果と考察
二項ロジスティック回帰分析の結果,地区の中心性指標としてPageRankによって算出された値,流行地区との関係性指標として流行地区との流動量を反映した値を投入したモデルが最も優れたモデルとして認められた.すなわち,近隣学校の流行発生状況よりも,地区間での人的な接続度合が流行に影響し,学校間というミクロなスケールにおいても,流動量を用いたモデリングが効果的であることが実証された.
情報量規準を最小にするモデルを用いて乱数シミュレーションを行ったところ,流行曲線や流行伝播の空間的パターンが実際の流行と異なる傾向となった.そこで,対象期間を流行初期,流行拡大期,流行蔓延期に分けて,再度パラメータを推定した結果,流行曲線と空間的パターンの両方で,実際の流行と類似した傾向を再現することができた.流行初期と流行拡大期において,学校のタイプや学校区の14歳以下人口割合が有意に関係しており,流行初期での流行伝播には,生徒同士のネットワークが強く関係していたと考えられた.

本研究は,RISTEX科学技術イノベーション政策のための科学「感染症対策における数理モデルを活用した政策形成プロセスの実現」(代表:西浦博)による成果の一部である.
著者関連情報
© 2015 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top