日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P035
会議情報

発表要旨
フィリピン・パンパンガ川流域における時間降水量分布の特徴とその日周期の季節性
*権田 太志森島 済
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

(1)熱帯域における降水は,熱帯収束帯の南北移動やモンスーンによって季節性を伴い,その中で明瞭な日変化をする。本研究の対象地域であるフィリピン・パンパンガ川流域は,熱帯収束帯の移動と同期した北半球夏季の南西モンスーンに伴って主な降水が生じる地域である。しかしながら,モンスーンの季節内変動や年々変動といった広域的な循環システムの変化と地域的な降水の日変化特性や降水量分布との連関について,必ずしも明らかにされていない。そこで本研究は,フィリピン・パンパンガ川流域における降水日変化特性とモンスーンの季節内変動や年々変動との連関性を明らかにすることを目的とし,まず雨季内における時間降水量分布の特徴とその日周期の季節性を調べた。(2)PAGASAによって観測が行われた1992年~2011年の雨季5月~10月における時間降水量データを使用した。解析対象地点は,欠測が20%未満の14地点である。さらに,モンスーンの季節性との関連を明らかにするためにECMWFのERA Interimによる0.75°グリッドの再解析データから6時間ごとの地上風データ(U,V成分)を降水量データと同様の期間用いた。まず,時間降水量分布の特徴を明らかにするために主成分分析とクラスター分析を用い,卓越する時間降水量の分布型を分類した。具体的には,主成分分析を行い,これから得られる時係数に対してクラスター分析を行うことで,類似した時間降水量の分布型を分類した。さらに各分布型の日周期を明らかにするために,各分布型の時間降水量データを用いて時別発現頻度を算出した。また,モンスーンの季節性に着目して各分布型の日周期を明らかにするために,月ごとに時別発現頻度を算出した。(3)主成分分析とクラスター分析から時間降水量の分布型を12種類に分け,さらに地域ごとに平野型,河口型,山麓型,山脈型の4種類へ分類した。この際,各分布型の前後に現れ,少雨が1地点のみで降る特徴をもつ降水の開始及び終了型の2種類と1日中降水が継続する特徴をもつ熱帯性擾乱型の1種類について,地域性に着目し分類を行ったため除外した。季節全体における時別発現頻度の分析によれば,平野型は日最大となる17時の発現頻度が全体の約13%を占め,14時~21時を中心として発現頻度が集中する。また平野型が17時にもつ約13%の日最大発現頻度は,その他3種類の分布型がもつ日最大発現頻度と比較してもっとも高い割合を占める。河口型は日最大となる19時の発現頻度が全体の約8%を占め,15時~22時の間で緩やかなピークを現す。山麓型は日最大となる17時の発現頻度が全体の約11%を占め,13時~20時に発現頻度が集中する。山脈型は日最大となる17時の発現頻度が全体の約10%を占め,14時~20時に発現頻度が集中する。以上のように4種類の分布型は,基本的に昼過ぎから夜にかけて発現頻度が集中する。モンスーンの季節性と各分布型の日周期との関係を明らかにするため,月ごとに時別発現頻度を比較した。5月は,平野型が18時,山麓型が17時を中心に発現頻度が集中する。しかしながら,河口型と山脈型は発現頻度の中心となる時刻が不明瞭であり,昼過ぎから夜の間で様々な時刻に発現頻度が高くなる。8月は,平野型と山脈型が17時,山麓型が18時を中心に発現頻度が集中し,発現頻度の中心となる時刻が明瞭である。しかしながら,河口型は13時~19時の間で緩やかなピークを現し,他3種類の分布型と比較して発現頻度の中心となる時刻がやや不明瞭である。10月は,平野型が16時,ついで21時において相対的に発現頻度の高い時刻が存在する。しかしながら,全体的には4種類すべての分布型で発現頻度の中心となる時刻が不明瞭であり,1日の様々な時刻に発現していることから日周期が不明瞭と言える。また,河口型は早朝の発現頻度が相対的に高い特徴をもつ。以上のことから,モンスーンの季節的な段階において日周期の季節性が異なっていることを示している。

著者関連情報
© 2015 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top