日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 705
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発表要旨
京浜地域外縁部における開発型中小企業の展開 ―八王子市を事例として―
*古屋 辰郎
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抄録

問題の所在・研究目的 本稿の目的は,東京都八王子市を事例として,京浜地域外縁部における開発型中小企業の展開を考察し,開発型中小企業の性質的変化とその技術基盤を明らかにすることにある. 現代資本主義における特性の1つとしてグローバル化が挙げられる. 1980年代から進行する大手組立メーカーの海外進出は,量産部門のみならず研究開発部門までもが進行しようとする状況にある.中小製造業が淘汰されていく一方で,存続する企業も存在する.存続要因を説明する1つの鍵概念として,「中小製造業の知識産業化」が挙げられる.本稿の研究対象地域である東京都八王子市は大都市圏外縁部は都市・地方双方の性格を有する地域である.独自の発展経路を歩んだ大都市圏外縁部の開発型中小製造業について生産側から検討することは,都市・地方に何らかの示唆を与えるという部分で意義を有するといえる. 研究手法 開発型中小製造業における生産現場の視点から捉えるために,事例分析を行う.事例分析を行うことで,八王子の中小機械製造業がどのように変化しながら存続してきたのかを明らかにする.分析にあたっては,主として,2014年8月から11月にかけて行った聞き取り調査の結果を用いる.聞き取り調査は八王子市内の中小機械製造業14社に行った.本稿では,事例分析対象企業を「製品開発型企業」と「基盤技術型企業」に分類して分析を行う. 結論 新たに得られた知見は以下の通りである.1つに,金属加工業を中心とした基盤技術型企業が欠如していたと理解されてきたなかで,創業時から試作少量加工を手掛ける企業が存在していることである.基盤技術型企業おいても,多摩地域の先端技術を要する企業からのスピンオフによるところが大きい.2つに,開発型中小企業が多摩地域に進出した大企業との受注関係から,受注地域を拡大していることである.創業前の母体企業で勤務していた時のパイプの活用やネット受注などを介して受注構成が変化している.東北・九州へ受注地域が拡大した理由として大企業の組立工場や研究開発機関に対して取引を行っているからである.3つに,企業間の繋がりが希薄であった八王子において,複数の外部機関が存在し,取引関係に限らない企業間の相互依存性がみられるようになったことである.「顔の見える関係」の構築や販路拡大,資金獲得の面で,八王子の開発型中小企業の支援行っている.一方で,地元大学との連携や市場の創出などの課題を残している.

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