日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P050
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発表要旨
千葉県南部東京大学演習林における炭窯跡の分布傾向
*江口 誠一金井 敬宏當山 啓介西谷 大
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抄録

千葉県南部の房総丘陵東部に位置する東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林千葉演習林(以下千葉演習林という)は、川越藩の藩有地だった江戸時代より、木炭の一大生産地として機能してきた。地元集落の住人が権利を購入し、立木を伐採利用して炭を焼き、また当時の東京帝国大学が地元の人々を雇用して炭窯を直営する「官営製炭」も行われた。炭焼きは1960年代の燃料革命まで盛んに続けられ、1962年末時点で周辺5集落の製炭従事者は200名以上であったと記録に残されている。その炭焼きに関して、具体的な製炭の実施場所、地形的な立地環境などの記録が少なく、全貌は明らかにされていない。それらの実態を解明する基礎として、本研究では千葉演習林内に残存する炭窯跡の分布と形態的特徴を調査し検討した。
調査対象地域は千葉演習林東部域とし、設定された歩道・林道沿いを中心に実地調査し、既存の研究を基に改良した基準に基づいて炭窯跡を見出だした。ここでは以下の基準に1つでも該当する項目がある場合を炭窯跡として認定した。①土窯跡(あるいは石窯跡)は平面形がおおよそ楕円形状の窪み(石積み)であり、長径、短径ともに2~4m前後であること。窯壁とされる窪みを囲む高まり(石積みの高まり)には、窯口部に相当する切れ目が認められること。②穴窯跡は岩壁に掘られた穴で、天井部が石組みで構築されていること。
見出だした炭窯跡は緯度経度を計測した。立地環境は「尾根,谷底,山腹」に、微地形上の立地を独自に「平坦地、遷緩線上、斜面間平坦地、斜面上、斜面頂部平坦地、後方部微高地、穴窯」の7タイプに分類した。形態的特徴として、材質を「土、石、土と石の併用」の3タイプに、形状を「楕円、円、イチョウ、イチジク」の4タイプに分類した。また、炭窯と植生との関係を調べるため、周囲の樹種(10m径)を目視により記録した。
 結果として、千葉演習林東部域では計73基の炭窯跡が見出だされた。土窯跡が37基、石窯跡が28基、それらの併用窯跡が6基、穴窯跡が2基であった。調査地域全体にかけて広く分布し、特に北端部に集中する傾向がみられた。北端部は調査地域の内、最も近隣の黄和田畑集落に近い場所であり、この集落の住人が千葉演習林で炭焼きをしていたと推察される。また、他の地区では沢沿いと林道周辺に炭窯跡が多く分布した。千葉演習林の炭窯は,水の利用や交通の便を重視して築窯されたと考えられる。
炭窯跡の立地地形は谷底部が最も多く38基が立地した。微地形上の立地タイプは遷緩線上タイプが28基と最も多い。こうした地形に多く立地するのは、製炭作業上の利便性を考慮して、炭窯が築窯されたことを示している。
炭窯跡の形態的特徴として、調査地域の北部では土窯跡が多く、穴窯跡や固有の特徴を有した石窯跡など、多様な形態が確認された。一方、南部の林道周辺では直径0.2m前後の石材が雑然と積まれた石窯跡が多かった。これらの地区による形態的特徴の違いは、それぞれで異なる製炭の様式が展開されていたことを示している。
形状は、楕円形が27基、円形が25基であり、どの地区においても多数を占めた。
炭窯跡周辺(10m径)の植生として、造林されたスギ・ヒノキ林での立地が多く、その稼働時の植生との対応を再度検討する必要が求められた。しかし広葉樹は34基で確認され,特にカシ類が多いことから、それが主要な薪炭材だったことが想定された。
本研究で調査した演習林の炭窯跡の分布傾向は,盛んな製炭地区の所在を明らかにし,形態的特徴は地区による製炭様式の違いを示した。炭窯は製炭作業上の利便性を考慮し築窯されているが、植生との対応関係は今後の課題となった。

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