抄録
1.はじめに
2009年3月告示の新学習指導要領により,高等学校地理Aの中項目に「自然環境と防災」が新たに導入され,自然災害が自然環境の特色や地域の個別事例とともに取り扱われるようになった.自然災害は自然現象が人間社会に被害を与えることにより発生するものである.そのため自然災害を理解するためには,自然災害を自然環境だけでなく,人間社会の条件も含め,自然災害が発生する要因やしくみを学習することが重要であると考える.また,大地震のように大きな自然現象が起こると,地震動による災害だけではなく,様々な場所で津波や山崩れによる二次的災害が発生するように,自然現象は地域によって異なる災害をもたらす.このような自然災害の地域性を学習するためには,自然災害のしくみを体系的に理解させることも重要であると考える.そこで,本研究では,高等学校地理の自然災害学習に活用可能な教材を作成することを目的とし,過去の大規模な自然災害の資料を基に,日本の自然災害の特徴と台風災害の地域性に関する教材を作成した。
2.日本の自然災害の特徴に関する教材
自然災害の要因を理解するためには,過去の自然災害の事例から学ぶことが最も有効な手段の一つである.自然災害が発生する要因を学習するための教材として,日本における過去約100年間の大規模な自然災害を選んで年表を作成した.本研究では大規模な自然災害を1000人以上の死者・行方不明者をもたらした災害と定義した.年表から,日本において大規模自然災害は,(1)台風災害と地震災害が多いこと,(2)津波・土石流・洪水などの二次的な自然現象や,火災などの二次災害を伴うこと,(3)都市部で多いこと,(4)1940年代に頻発したこと,(5)1960年以降,きわめて少なくなったことなどを読み取ることができる.この年表から自然災害の大きさは自然現象の大きさだけでなく,社会的条件にも大きく左右されることを学習させることができる.
3.台風災害に関する教材
日本のほとんどの地域で発生する台風は,生徒にとって自然災害をもたらす身近な自然現象の一つである.そこで,台風災害を取り上げ,その地域性を学習させる教材作成を行った.具体的には,台風の進路とその被害地域との関係を示す図や,強風,多雨,気圧低下をもたらす台風という自然現象と自然災害との結びつきを示す台風災害のしくみに関する流れ図を作成した.これらの教材によって,台風は地域によって異なる災害をもたらし,山間部では崖崩れ・土石流災害に,平野部では洪水災害に,沿岸部では高潮災害に結びつくことを学習させることができる.
4.おわりに
本研究では,日本の自然災害の特徴と,台風災害の地域性に関する教材を作成した.本研究で作成した教材は,高等学校地理Aにおける自然災害学習の導入教材(例えば,災害事例から学習する前の,自然災害の全体像を大観させる教材)として活用できると考える.また,災害の地域性を理解することは,様々な地域に居住する生徒にとって,起こりうる身近な災害に対する防災意識の向上、さらには地域をみる意識の改革にもつながると考える.