抄録
1.はじめに
2008年に日本ジオパーク、2012年に世界ジオパークへの加盟を果たした室戸ジオパークは、あるべきジオパークを目指して地域住民や民間、行政との協働により様々な活動が展開されている。昨年実施されたJGN再認定審査では以下の点が優れているとして指摘されている(抜粋)。
・地域住民がジオパークの活動に主体的に関わる場を、協議会専門員が上手くコーディネートしており、地域住民が主体的に、自分たちのペースでジオパークに関わることができる雰囲気作りに成功している。
・地元新聞社によるジオパークの取組連載、ケーブルテレビが制作した地元高校生等を主人公としたジオパーク関連番組の放送など、ジオパークの情報が定期的に地域に発信されている。
・国内の大学生を積極的に誘致し、インターンシップの制度を国内に先駆けて実施したほか、卒業研究等の受け入れ体制が整っており、持続的に室戸ジオパークを研究してもらうためのサポート体制ができている。
・協議会専門員との協力により、地元の高校でジオパークを学ぶ授業が継続して行われている。
2.室戸高校での取組み
室戸高校は、平成9年に高知県内初の総合学科高校として再スタートした県立高校である。生徒数は1960年代には800人近くいたが、現在では160人ほどに減少しており、近年では定員割れが続いている。学習意欲の高い生徒から「手のかかる生徒」まで混在している。地域密着をテーマに魅力ある学校づくりを進める室戸高校では、ジオパークが様々な場面で活用され始めている。
◆選択授業「ジオパーク学」の「観光甲子園」本選出場
受講生2年生5名が現地での聞き取り調査などを通してオリジナルのジオツアーを作成した。なぜ台地の上に農地があるのか、おいしい農作物や魚が採れるのはなぜか。そんな問いを提示しながらツアーを作成した。作品は観光プランで日本一を競う「観光甲子園」に応募し、中四国地域で唯一本選(全国大会)に出場した。
◆音楽の授業におけるフィールドワークの導入
音楽の授業において、地元に継承されている伝統芸能「鯨舟歌」を歌おうという実践を行った。室戸でなぜ鯨舟歌が歌い継がれているのか。歌唱練習の前段として、クジラ、鯨舟歌、地形のなりたちのつながりという「ジオストーリー」の講義を展開した。また室戸市内に残る捕鯨の史跡を巡るフィールドワークを実施し、人々がどんな思いでクジラを獲っていたのかイメージをふくらまさせた。
3.ジオパークの教育的効果
これらの教育実践は、主にジオパークの専門員と授業担当教員によって展開された。実践による効果は以下の点にまとめられる。
・室戸の地質的価値を学ぶことで、「何もない田舎の室戸」から「世界に誇れる室戸」と生徒の意識が変化。郷土に対するアイデンティティーの再構築が図られた。
・他者とのかかわりの中で生徒の自己肯定感が高まった。
・身の回りにある現象がなぜ生じているのか、地域の自然とのつながりを現場で考える場を提供した。
・地域住民の地元高校生に対する協力意識が芽生えた。
・教員が地域を知る場として機能した。(教員が楽しんでいた)
これらの教育実践はジオパークの専門員という「外部者」が入りこんでの実践が展開できた。その理由の一つにジオパークの4年ごとの再審査制度が挙げられる。再認定をいかにして得るかという共通課題を持つことで地域が一致団結する。既存の枠組みを超えて、地域に新しい人と人のつながりを構築することを可能にしている。そういって構築される人と人のつながりは、自然災害に対するレジリエンスにもつながるのではないだろうか。