日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P016
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発表要旨
糸魚川-静岡構造線活断層帯中部・釜無山断層群の断層運動によるバルジの形成
*池田 一貴
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抄録
長野県富士見地域は,糸魚川-静岡構造線(以下糸静線)活断層帯の中部区間の最も南側に位置する.この地域の断層は左横ずれが卓越しており,断層の累積的な運動による船団状の小丘地形(テクトニックバルジ)の形成が指摘されている.バルジは圧縮応力下に短く雁行して生じた高角度の逆断層のそれぞれの北端に発生したターミナルバルジで,左横ずれに伴う地形としている(澤,1985).また,バルジと断層の関係については,バルジを長軸方向に横切る断層の存在も確認されている(たとえば杉戸ほか,2010).  一方で上田(2003)では,横ずれ断層系の発達過程と変位地形について模型実験を行い,雁行配列を示すリーデル剪断群の運動に伴って地盤が膨らみ,バルジの形成を説明している.しかし,釜無山断層群ではこのモデルが当てはまる可能性を示唆するにとどめている. 本研究ではテクトニックバルジが釜無山断層群の活動によってどのように形成されたのか,とくに発達過程と形成のタイムスケールに着目し,断層の変位量や活動性などから検討を行った.本地域のテクトニックバルジは断層の走向方向に長軸を持ち,その両縁を断層に限られている.一部のバルジではバルジの長軸方向を横切る断層も確認されている.(以下,便宜上バルジ両縁の断層をX断層,バルジの長軸方向に横切る断層をY断層とする)
本地域には大部分がM1面(100ka)に対比される富士見地域最大規模のバルジが存在する.1:2500地形図から地形断面を作成し変位量を計測した結果と杉戸ほか(2010)の結果から,バルジの北西端では,X断層はL面への変位は見られないがY断層は新しい北西側のL面にも変位が見られることから,新期の断層運動はY断層で起こっていると考えられる. また,Y断層に沿っては,バルジに溝状凹地が見られ,さらにバルジを横断する小河谷に左横ずれ変位が見られる.Y断層の 活動開始時期については,AT(26-29ka)と凹地の腐植土層の基底の年代から,AT降下以降7790±60yrBP以前に活動を開始した可能性がある
同様にとちの木地域のバルジでも検討した.このバルジにおいてY断層はこれまで指摘されていないが,DEMデータから作成した鳥瞰図に北西-南東方向に長い溝状凹地とバルジを開析し横断する谷が2つ確認できる.この2つの谷は溝状凹地を境に200-215mの左屈曲が認められ,バルジを横断する谷の下流側と考えられるバルジ北東側が溝状凹地よりも高く局所的な変位を受けたと考えられる.したがってバルジを切る溝状凹地に沿って活断層を推定した. この溝状凹地でハンドオーガーを用いた掘削を行った結果,凹地の中心部ほど腐植土層が厚く堆積する様子が確認できた.これらの結果から断層活動によって溝状凹地が形成され,その凹地に腐植土層が堆積したものと考えられる.
御射山神戸ではまずX断層が活発に活動することでバルジが形成され,その後Y断層の活動によって溝状凹地が形成された.とちの木ではY断層が存在し,バルジが変位を受けていることが明らかとなった.今後,バルジ全体の形成プロセスやタイムスケールの解釈を考える必要があり,また腐植土層の基底の年代が明らかとなればY断層の活動開始時期についての議論が可能となる.
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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