抄録
1 はじめに
日本には『日本書紀』に始まる豊富な史料があり,これを素材に多くの古気候研究がなされてきた.発表者も大学時代は研究に明け暮れた(谷岡,2010;2011).その後,発表者は公共施設等に勤務し,幅広い見識を積むことができた一方で,就職活動等により研究は停滞することとなった..2014年には生活拠点が大都市圏外に移って情報収集・発信も難しくなり、正規の職に就いた現在も研究再開の見通しが立っていない.
今回の発表は簡単な史料紹介とともに,こうした状況を打開するための糸口を探ることを目的とする.
2 因府年表について
今回発表する史料は『因府年表』である.同書については既往の古気候研究でも取り上げられてきたが,詳細な分析等がなされてこなかった.
『因府年表』は鳥取藩の歴史書であり,藩士の岡嶋正義が編纂した.同書は1630年(寛政7)~1841年(天保12)について書かれたものであり,『因府年表』(1630~1747年)と,その続編である『鳥府厳秘録』(1748~1807年)・『化政厳秘録』(1808~1830年)・『天保厳秘録』(1831~1841年)の4つからなる.後2者は草稿的なものとされるが,今回はこれらすべてを合わせて「因府年表」と呼ぶ.
因府年表は大正時代に活字化された.しかし,これは底本が明らかでなく,編者(岡嶋)の記述文を省略するなどしているため,著者の自筆本を底本としたものがのちに出された(日置ほか校註,1976).なお,後述の方法で大正時代の活字本と鳥取県史とを比較すると,後者の記載箇所が前者よりも多かった.
3 集計方法・結果
集計は,長雨・大雨・干ばつ・大雪等を,谷岡(2010;2011)にほぼ準拠し,直接的/間接的記載等に分けながら行った.
鳥取県史を用いた結果,(1) 寒候期(11~3月)について,以下のことが分かった.
(1)-① 1730~1750年代,1820年代前半,1830年代後半は少雪の記載が相対的に多い.
(2)-② 1700~1710年代,1760~1780年代,1800年代後半~1810年代,1820年代末~1830年代前半は多雪の記載が多い.
(2) 暖候期(5~10月)については明瞭な傾向に乏しいが,以下の傾向があった.
(2)-① 1740~1760年代,1790~1810年代に干ばつの記載が多い.
(2)-② 1770~1780年代に長雨の記載が多い.
また,年代が下り史料が詳細さを増すにつれて,多雪と少雪,干ばつと長雨の両方が記載されている年も多いことが分かったため,史料の詳細さをどう引き出していくのかも課題として残った.
今後もこうした成果を発表することで,関係各位の批判を乞いつつ,研究を再開していきたい.
参考文献
谷岡能史 2010.近畿地方の文献史料から見た7~10世紀の暖候期における気候.地理学評論 83: 44-59.
谷岡能史 2011.『考古遺跡で検出された洪水痕跡と古気候の関係』 広島大学大学院文学研究科博士論文.
日置粂左衛門・浜崎洋三・徳永職男(校註) 1976.鳥取県史第7巻 近世資料.鳥取県.