抄録
1.はじめに
近年,クリーンエネルギーとして風力発電が注目されている.特に,北海道では風力発電の導入量が多い.しかし,風力発電を大量に導入すると風速が急激に変動することにより電力の安定供給に影響を及ぼすことが知られている.そこで,風速が急激に変動するタイミングを予測することが非常に重要である.予測精度は気象学的な要因に大きく依存している.例えば,北海道留萌地方で吹く風は暑寒別岳の影響で局地的な影響を強く受けることがWRFによるシミュレーションによって明らかにされている(葛西ほか,2014).そこで,本研究では北海道留萌地方を対象に風速の急変動現象の気象学的な要因を統計手法を用いて明らかにする.
2. 解析方法
まず,留萌の風速データより1時間の変動値を求め,変動値の3.0σ(8.6m/s)を超えて風速が増加したときを急増加と定義した.続いて,NCEP/NCAR再解析データの海面補正気圧(以下,SLP場)を使って主成分分析し,得られた第1~第6主成分までの主成分スコアに対する6次元空間内で風速急増加日(112日)についてクラスター分析を行って,風速急増加日における広域気象場を明らかにした.さらに,北海道気象官署22地点のSLP場について,各時刻での全22地点の平均値からの偏差に直して主成分分析を行い,風速急増加時のSLP場の特徴を広域気象場と併せて検討した.
3.結果
留萌において風速が急増加する前後の風向を比較すると,風速増加前は卓越風向がみられないのに対して,風速増加後の風向は西南西の頻度が大幅に増加しており,西南西から北西の風向が卓越している(図1).
広域気象場によるクラスター分析の結果,9グループに分類できた.留萌では北海道付近を低気圧が通過することで風速の急増加を引き起こすが(永野・加藤 2015),今回分類された9グループのうち北海道付近に低気圧が存在するパターンは5グループみられ,この5グループの出現日数の合計は77日であった.この5グループの出現日について北海道の気象官署22地点によるSLPの主成分分析(以下,狭領域場)によって得られた第1-第2主成分スコア内の位置を解析したところ,第3象限にもっとも多くみられる(図2).第3象限のパターンは南南東から西南西にかけ気圧が高くなる空間構造を持ち,地上天気図から北海道の北側を低気圧が通過するパターンと確認できた.
留萌の強風域は狭領域場の第1-第2主成分空間内において第1主成分スコアが負の領域で第3象限を中心にみられた.また,西南西の風に限ってみると第1主成分スコアと第2主成分スコアがともに負で卓越していると風速が強まっている(図2).第3象限に位置していた風速急増加日の主成分空間上の軌跡を風速増加前後の1時間で比較すると,各スコアの絶対値が小さい領域から各スコアの絶対値が大きい領域へと移動していた.すなわち,北海道の北側を通過した低気圧により北海道の気圧場が変化し,風向も変化したことにより留萌での風速増加をもたらしたと考えられる.