日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 604
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発表要旨
豪雨と地震に伴う阿蘇火山・仙酔峡での斜面崩壊 -UAVとSfM多視点ステレオ写真測量を用いて-
*齋藤 仁内山 庄一郎小花和 宏之早川 裕弌
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抄録

1.はじめに
阿蘇山・中央火口丘や外輪山の斜面では,豪雨と地震による集団発生的な斜面崩壊が頻繁に起こり(例えば1990年7月, 2001年6月, 2012年7月,2016年4月),地形変化の速い地域である.斜面崩壊発生場所の特徴や,その後の地形変化を明らかにすることは,今後の土砂災害対策や,阿蘇を特徴づける草地景観の保全の観点から重要である.しかしながら,斜面崩壊は深さ数m以下であり,一般的な衛星画像や空中写真では,その空間分解能,撮影頻度およびコストの面で,表層崩壊地やその周辺での時空間的スケールの小さな変化を捉えることは容易でない.一方で近年,無人航空機(UAV)とStructure from Motion(SfM)多視点ステレオ写真測量の技術により,比較的簡易かつ安価に,高精細のオルソ画像や,ポイントクラウド,DSMの取得が可能となった(早川ほか,2016,地形). そこで本研究では,UAVとSfM多視点ステレオ写真測量を用いて,阿蘇火山・仙酔峡の斜面崩壊地において,高精細な地形解析をおこなった.対象としたのは,2012年7月九州北部豪雨,及び2016年熊本地震に伴う斜面崩壊である.特に,異なる時期のデータを用いて,斜面崩壊の地形的特徴と地形変化に関する解析をおこなった.

2.対象地域と手法
対象地域は,阿蘇火山・仙酔峡の草地斜面(1.0 km2)である.2012年8~9月,2014年8~12月,2015年3月・9月・12月,2016年3月・5月・7月に現地調査,およびUAV,GNSSによる測量をおこなった.取得した低空空撮画像からSfM多視点写真測量を用いて,オルソ画像,ポイントクラウド,DSMを取得した.また2012年以前の地形情報として,航空LiDAR(空間解像度2 m,2004年4月取得)を用いた.

3.結果と考察
空間解像度0.04~0.05 mのオルソ画像と,空間解像度0.1 mのDSMが得られた(図1).2012年7月九州北部豪雨では,約400箇所の表層崩壊(8.7 ~6,162.2 m2)が発生した.平均崩壊深は0.7 m程度であり,土砂生産量は1.1~1.5 ×105 m3/km2であった.この土砂生産量は,先行研究(宮縁ほか,2004,地形)と比較すると,一桁大きいことが示された. 2016年熊本地震では,仙酔峡の上流域を中心に,約10箇所で斜面崩壊が発生した.2016年3月(地震前)と5月(地震後)のDSMを比較すると,崩壊深は4.0 m程度であった。また,個々の斜面崩壊の体積は3.0×103 m3 に達し,降雨で発生した崩壊よりも一桁大きかった(図1).斜面崩壊は尾根付近から発生し,地震と降雨とでは崩壊の発生形態が異なっていた.今後も、継続的なUAVによる画像を取得し,多時期のデータを用いて地形変化と植生変化を定量化することが課題である.


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